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『夢助』に込められた最後のメッセージ~忌野清志郎

2020.02.15

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忌野清志郎の生前最後のオリジナル・アルバムとなった『夢助』は、2006年5月22日から6月12日にかけて、アメリカのナッシュビルのスタジオでレコーディングされた。
そして、そのレコーディングの模様を密着取材したドキュメンタリー番組『This Time』も制作され、2006年の秋にテレビで放映された。



『夢助』のプロデューサーは、スティーブ・クロッパー。忌野清志郎が敬愛するオーティス・レディングと活動を共にしたBooker T. & The MG’sのギタリストだ。
1992年のソロ・アルバム『Memphis』で務めて以来、2度目とプロデュースとなる。
アルバム全編に渡って、スティーブ・クロッパーらしいR&Bサウンドとなっている。

“RCサクセションが聴こえる”という歌詞が印象的な「激しい雨」は、盟友CHABOこと仲井戸麗市との共作だ。この歌詞は、ニール・ヤングが自身のソロ・アルバムで「バッファロー・スプリングフィールド・アゲイン」という曲を歌っているのを聴いたことから生まれたアイデアだ、とCHABOは番組で語っていた。

ニール・ヤングが今、いろんな遍歴があった自分のバンドを、ああいう形で歌ったっていうのは、なんかすごく俺にとっても良い感じで響いて、俺と清志郎だったらRCだ、そのことを歌う一行ってどうだ?っていう発想。(中略)ラジオでかけてくれた時に、「RCサクセションが鳴ってる」っていう歌詞が、あの、一発で清志郎とわかる声で聞こえて来たら、面白えんじゃないかって。

「激しい雨」



「This Time」は、スティーブ・クロッパーが清志郎のために作詞作曲した歌だ。英語で書かれていた歌詞を清志郎が日本語に訳して歌ったその内容は、まさにその時の、レコーディングのためにはるばる日本からやって来た清志郎について書かれているようだ。

そして清志郎が付け足したというサビの部分は、クロッパーの詞を受けて彼本人の正直な思いが綴られているように感じられ、とてもストレートなメッセージが、聴く者に勇気を与えてくれる。

クロッパーが作曲した印象的な歌がもう一曲、アルバムに収録されている。
「オーティスが教えてくれた」は、まさにオーティス・レディングが歌うスローなバラードを想起させる。
メロディーに乗せて歌われるその内容は、清志郎自身のパーソナルな思いから普遍的なメッセージへと広がり、また、RCサクセションの「トランジスタラジオ」にも繋がる1曲だ。

忌野清志郎が、癌で入院のため音楽活動の休止を発表したのは、レコーディングから1ヶ月後の7月13日だった。
おそらく自身の身体のことを知りながら、このアルバムの制作に臨んだのではないかと感じられる部分が所々にある。
特に「花びら」で歌われる歌詞にはドキッとさせられ、胸に迫るものがある。

「花びら」


『夢助』と名付けられたこのアルバムでは、「誇り高く生きよう」と、「何度でも夢を見せてやる」と歌い、そして夢は「きっと叶えられるさ」と、声を振り絞って清志郎は歌う。
それは、彼から私たちへの最後のメッセージだと取れるだろう。

レコーディングが終了した翌日、スティーブ・クロッパーは清志郎へのプレゼントを用意していた。それは、B.B.King ブルース・クラブで予定されていたクロッパーのライブに、清志郎を出演させることだった。この伝統あるブルースのライブハウスに日本人で出演したのは、忌野清志郎が初めてだった。サプライズのプレゼントだったから、リハーサルもなくぶっつけ本番だったというが、番組ではその素晴らしいライブの模様を伝えていた。
忌野清志郎自身も、夢をひとつ叶えた瞬間だったのかもしれない。




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