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中島みゆきとちあきなおみの出会いから生まれた「ルージュ」のさまざまなる味わい

2020.01.31

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研ナオコの「あばよ」が発売になったのが1976年9月25日、オリコンのヒットチャートで1位を獲得したのは11月15日だった。
「あばよ」は彼女にとっては最大のヒット曲となっただけでなく、歌手として生きていく道を約束する楽曲になった。

作詞作曲したのはまだデビューして間もないシンガー・ソングライターで、当時はまだ札幌に住んでいた24歳の中島みゆきだった。

はじめて歌謡曲の歌い手に提供した楽曲が大きな成功を収めたことで、彼女にはソングライターとして一気に注目が集まった。

しかし歌謡曲の作家ではないために、どこへどのようにアプローチすれば楽曲を書いてもらえるのかが、芸能界の内側にいる人にはわかりにくかったらしい。

その当時の歌謡曲にはないセンスの「あばよ」を聴いて、ちあきなおみは作詞作曲した中島みゆきに興味を持った。

そして中島みゆきにとっても、ちあきなおみという歌手は以前からどこか気になる存在だったという。

ちあきさんのイメージと言えば、最近ではテレビのCMなんですね。
テレビを見ながら、足でスイッチ押そうとするのがあるでしょう。
あの雰囲気って素敵ですね。
わたしっていかにも2枚目っていうのは、ゴクロウサンさんっていう感じなんです。(笑)


そんな2人が出会うのは偶然の必然であったのかもしれない。

私、あの曲(「あばよ」)が大好きなんです。
その時から、中島みゆきさんに曲を書いていただければなぁと思っていたのです。
もちろん、漠然としたものでしたが、そんな時に、ちょうどみゆきちゃんの、ちあきさんの曲を書いてみたいって新聞記事を目にしたんです。


ミノルタカメラのCMが好評を博していた研ナオコの場合も、それを見ていた中島みゆきがすぐに楽曲提供に応じたという経緯があった。
ちあきなおみの場合も同様で、「ちあきさんの曲を書いてみたい」という言葉が活字になって、それを本人が見つけて読んだことから、楽曲提供の話が具体的に進み始めていく。

しかし中島みゆきは「ちあきさんの曲を書いてみたい」という言葉がそんなに早く、現実になるものだとは思っていなかったという。

自分が曲を書くような機会があるなんて、実際には、想像もつかなかったですね。まさか、私がっていう感じで……(笑)


ちあきなおみも漠然と曲を書いてほしいと思ってはいたが、それが数カ月後に形になるとまでは予想できなかった。

私もまさかっていう感じでした。話を持っていってもだめだろうなって思っていました。


それがまたたく間に実現したのである。
初対面だった2人は一緒に食事をすることになった。

ちあきなおみがその時の気持ちをこう述べていた。

雑誌の写真なんかで知っているだけで、シンガーソングライターの人にお会いしたのは実は初めてなんです。作詞作曲家って、割と気むずかしい人が多いでしょう。ですから、お会いする時は少し緊張していたんです。


しかし案ずるより産むがやすしのことわざ通り、お互いに心を開いて接することが出来たという。

だいたいが、いつもこぎたない連中と一緒にいるもので(笑)わたしも緊張しました。最初は憧れという感じで、本物かしら、さわってみようかしら(笑)。これはひとりよがりの見方かもしれませんが、気取らないひとだなって思いました。


ちあきなおみも緊張から解放されて、「とてもサッパリした人」だとわかって安心したらしい。
そして楽曲が完成するのを待つことになった。

そのときにニューミュージックの曲には素晴らしいものが多いのに、歌謡曲歌手が歌うと何かつまらなくなるのは何故かという話をしたこともあったという。

それで、どうしてなのかなって考えまして、これは、へんに頑張った歌い方をしないほうがいいんじゃないかなと思ったんです。




そんなことからできるだけ自然に唄えるようにとトライしたのが、1977年4月10日に発売されたシングルの「ルージュ」だった。
ちあきなおみはこの楽曲を制作するにあたって、いかにも歌謡曲的なニュアンスを避けるために、ザ・ハプニングス・フォーのドラムス出身で、トランザムのリーダ-だったチト河内にアレンジを任せている。

そうした意向を受けたチト河内は将来的にスタンダード曲になるようなアレンジを意識して、都会的で大人の雰囲気に仕上げたと述べている。



その年の7月にリリースされたオリジナル・アルバムの『ルージュ』は、中島みゆき、井上陽水、因幡晃といったシンガー・ソングライターの作品で統一された内容になった。

中島みゆきは1979年11月21日に初のセルフカバーアルバム『おかえりなさい』を発表したが、そのなかで「ルージュ」も取り上げている。

だが、それぞれの「ルージュ」を聴くと、とても同じ詞曲とは思えないほど印象が違っている。

オリジナルのちあきなおみのヴァージョンは速めのテンポなので、唄い方もあっさりいるし、後味も実にサッパリしている。
ところが中島みゆきのヴァージョンになると、歌詞とともに女性の「情念」が伝わってくるのだ。


そしてこの「ルージュ」をカヴァーして全アジアのヒット曲にしたフェイ・ウォンの広東語ヴァージョンと、中国本土で大ヒットした北京語のヴァージョンにも、それぞれの表情や情感が宿っていることに気づかされる。

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