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トーキング・ブルースのアイデアから生まれた、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」

2024.04.19

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ダウン・タウン・ブギウギ・バンドは、1974年の暮れに出した「スモーキン・ブギ」がヒット。続く「カッコマン・ブギ」のB面曲だった「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」も、曲中の台詞(セリフ)「あんたあの娘のなんなのさ」が流行語になるほど大ヒットして一世を風靡した。

作家として楽曲の依頼が入り始めたリーダーの宇崎竜童は、研ナオコに「愚図」を提供して歌手として成功に導き、山口百恵を「横須賀ストーリー」や「プレイバックPart2」でトップ・アイドルに押し上げて、作詞した夫人の阿木燿子とのソングライター・コンビで大活躍する。

宇崎竜童が歌詞をもらって困ったのは、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」の1回だけだったという。

「一寸(ちょっと)前なら覚えちゃいるが」という冒頭の言葉にメロディをつけようと思っても、「♪ちょいと一杯のつもりで飲んで~」と始まるナンセンス・ソング、クレージーキャッツの「スーダラ節」になってしまう。

すっかり困ったあげく、ギターをエイト・ビートで刻みながら歌詞をしゃべってみると、「あんた、あの子の何なのさ」というパートを台詞にすればいいとアイデアが浮かんだ。
続いて「港のヨーコ、ヨコハマ、ヨコスカ」のパートも、メロディーが出来てきた。

じゃ、その本編はどうしようと思ってしゃべっているうちに、あれは例えば道路工夫の歌、有名な道路工夫だったり、有名な機関車の運転手とか、バラードというのか、トーク・ソングというのか、物語をずっと歌手が語って、その人の名前を最後に一節歌って、その人の名前を言って、今度、二番に行くというのがあったことを思い出した。(宇崎竜童)


横浜から横須賀へと流れていった商売女を捜している男と、女と接点を持った連中の証言で成り立つユニークな歌が、子供の頃から聴いてきたカントリー・アンド・ウェスタンのなかにあった、トーキング・ブルースを思い出したことで完成した。

最後に名前を言う歌といえば、ジョニー・キャシュの「A Boy Named Sue(スーという名の少年)」が、アメリカでは有名だ。



父親に「スー」という女の子の名前をつけられた少年の物語を、キャッシュは独特の渋いバリトンで語るように歌っていく。

オヤジは俺が3つの時に出てった
俺とオフクロに何も残さず消えやがった
この古いギターと酒の空きビン以外はな
ああ俺は追っかけてなじったりはしねぇ
だがヤツが今までしたことのサイテーは
出ていく前に「スー」と俺に名付けたってこと


いじめやからかいにあって喧嘩をくりかえすうちに、いっぱしの乱暴者になった少年は、酒場でついに父に出会って対決する。
ところが白髪まじりになっても父は手ごわく、ふたりとも殴り合いで血まみれになる。

「息子よ、この世は甘くない。男がなにかやりとげるんなら、タフにならないとな。だがお前を強くしたのは、俺がつけたその名前なんだぞ」と父はうそぶく。
「おやじよ、俺は子供を持ってもな、スーなんて名は絶対つけねぇぞ!」と言い返す息子。

1969年にカリフォルニア州のサン・クエンティン刑務所で行われたライブで歌われたヴァージョンは、シングル・カットされて大ヒットした。


不良をイメージさせるこわもてのルックスとつなぎのファッションにふさわしく、ダウンタウン・ブギウギ・バンドの歌は社会の底辺に生きる人間たちのリアルな声、反逆的な歌詞や物語が特徴だった。

彼らは日本で最も有名な刑務所の歌、「網走番外地」をデビュー・アルバムの「脱・どん底」に入れたが、レコ倫からは発売禁止の処置を受けている。

常に弱者の味方で権力やシステムと闘い、生涯で何度も刑務所での慰問コンサートを行ってきた反逆のカリスマ、ジョニー・キャッシュとも通じるものが確かにある。
 

『ダウン・タウン・ブギウギ・バンド 35周年記念 VERY BEST OF ROCK&BALLADS』
EMIミュージック・ジャパン


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