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ジョン・ボン・ジョヴィがアジアの歌姫、テレサ・テンから受け継いで歌う「月亮代表我的心」

2015.08.28

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世界で最も有名なロックバンドのひとつボン・ジョヴィが、新しいアルバム『バーニング・ブリッジズ』を世界同時発売したのは8月21日のことだ。
だがその日の夜、中華人民共和国の国営テレビ局CCTVからは、こんなニュースが流れてきた。

Rocker Jon Bon Jovi sings Chinese love song

その日にネット上で話題をさらっていたのは、ボン・ジョヴィのヴォーカル、ジョン・ボン・ジョヴィが、中国語で歌ったYouTubeの映像だった。

テレサ・テン(鄧麗君)の名唱で知られる「月亮代表我的心」を、ジョン・ボン・ジョヴィが慣れない中国語で歌う動画が公開されたのだ。

いかにも東洋的でゆったりとしたメロディと、ジョン・ボン・ジョヴィのしゃがれたヴォーカル、そのふたつが合わさったところから、言葉には言い尽くせないなんとも不思議な情感が生まれてくるのがわかる。

「Jon Bon Jovi Sings Chinese Love Song for Valentine’s Day in China」


歌詞カードを見ながらスタジオでレコーディング中のジョン・ボン・ジョヴィが、片手に鉛筆を握って発音のチェックを受けながら、真剣に歌っている姿が映し出されている。
この動画がボン・ジョヴィのファンページに公開されたのは、中華版バレンタインデーに当たる8月20日だ。

発音は決してパーフェクトではなかったらしいが、中国語圏のネットユーザーは素早く反応した。

「わぁぁぁぁ!」
「カッコイイ!!」
「素敵!言葉も出ない」
「なんてクール!」
「美しい歌だ。そしてボン・ジョヴィは素晴らしいアーティストだ!!」
「慣れない中国語なのに情感たっぷり」
「聴いているうちに泣けてきた」
「最高のファンサービス」


動画を公開したファンページの運営者によると20日は旧暦七夕で、中国語圏のファンにとっては大きなプレゼントとして受けとめられたという。

ボン・ジョヴィは9月に上海や北京、台湾、韓国を巡回するアジア・ツアーを開催する予定になっている。
CCTVはその夜のニュースを、こう締めくくっていた。

ボンジョヴィは数多くのミリオンセラー・レコードを出し、世界で最も売れているバンドの一つです。
彼らはこれまでに50カ国以上で、2700回ものコンサートを開催してきました。
そして初めての中国ツアーが9月14日の上海で始まり、3日後には北京にやって来ます。


「月亮代表我的心(月は何でも知っている / 月はわが心)」は、1960年代に活躍していた台湾の女性歌手、陳芬蘭がオリジナル・シンガーだ。
しかし誰もが口ずさめるやさしくて親しみやすいメロディ・ラインと、わかりやすい歌詞を持つこの歌に永遠の生命を与えたのはテレサ・テンである。

1977年にテレサがカヴァーしたレコードは、地元の台湾だけでなく全アジアでヒットした。
さらには香港の人気スターだった俳優のレスリー・チャンや、アンディ・ラウなどのスターがカバーしたことで、世界中に広まっていった。


今年の5月23日に渋谷公会堂で行われた「テレサ・テン(トウ麗君)メモリアルコンサート~ 没20年追悼チャリティ音楽会~」でも、3Dホログラム映像でテレサ・テンの「月はわが心」が再現された。
しかしその客席で聴いた限りにおいて、残念ながら再生された歌から”ほんもの”の愛までは感じられなかった。

ところがわずか2分足らずのジョン・ボン・ジョヴィの歌からは、”ほんもの”の愛が感じられる気になる。
自由を求めて懸命に生きながらも42歳の若さで亡くなったテレサと、音楽を通じてジョン・ボン・ジョヴィが邂逅したことが伝わってくるように思えるのだ。

愛はいつも変わらない月の明かりのように純粋なのだと、繊細な歌声で静かに訴えていたテレサの思いは、ジョン・ボン・ジョヴィに歌われたことで、新たな生命力を得たのかもしれない。

音楽の純潔性はこうして、過去から現在、そして未来へと受け継がれていくのではないだろうか。

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