「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SONG

「レッキング・クルー」①~モンキーズの音楽を支えていた腕利きのスタジオ・ミュージシャンたち

2024.03.10

Pocket
LINEで送る

その演奏は誰もが聴いて知っているのに、名前はほとんど知られてはいない。

そんな腕利きのスタジオ・ミュージシャンたちが、1960年代から70年代にかけてアメリカ西海岸のロスアンゼルスを中心に、目覚ましい活躍をしていた。

プロデューサーのフィル・スペクターは1961年にフィレス・レコードを立ち上げたとき、自分の頭の中に鳴っている音を実現するために、優秀なアレンジャーとエンジニアを引き抜いて、若くて一流のプレイヤーたちを集めた。

フィル・スペクターのレコーディングでは、彼がイメージしている音とサウンドが一致するまで、同じフレーズを何度も何度も繰り返し演奏させて、OKテイクを録音していった。
譜面のとおり正確に演奏しても、フィルの現場ではOKにはならないのだ。

そもそもスコアはおおまかなものだったので、ミュージシャンたちは現場でアイディアを要求された。
それに応えられるセンスと実力を兼ね備えている者だけが残り、必然的にメンバーは限られていくことになった。

彼らはフランク・シナトラからエルヴィス・プレスリー、ビーチ・ボーイズ、ザ・バーズ、ソニー&シェール、ナンシー・シナトラ、ママス&パパス、サイモン&ガーファンクル、フィフス・ディメンションなど、ジャンルの壁をこえて実にさまざまなレコーディングをおこなった。

ドラムにはハル・ブレインやジム・ゴードン、キーボードにラリー・ネクテルやレオン・ラッセル、ギタリストにグレン・キャンベルやドクター・ジョン、ベーシストにキャロル・ケイやジョー・オズボーンと、多数のメンバーが存在していた。

のちに彼らは自分たちのことを、「レッキング・クルー(The Wrecking Crew)」と呼んだ。
命名者はドラマーのハル・ブレインである。

「アイ・アム・ア・ビリーバー」や「デイドリーム・ビリーバー」に代表されるモンキーズのヒット曲も、その大半を演奏していたのはレッキング・クルーの面々だった。

「デイドリーム・ビリーバー」モンキーズ


そもそもモンキーズはバンドではない。
大手音楽出版社「スクリーン・ジェムス・ミュージック」のドン・カーシュナーが、イギリスから登場してアメリカを席巻したビートルズに対抗するために、テレビ番組用に作り上げたグループだ。

そのオーディションに合格したのはディビー・ジョーンズ、ピーター・トーク、マイク・ネスミス、ミッキー・ドレンツの4人。
ただし、まともに楽器を弾けたのはマイクだけだったという。

したがってデビュー曲の「恋の終列車」からヒット曲を量産したモンキーズのバックには、若くて優秀なソングライターたちとともに、レッキングクルーの面々が控えていた。
モンキーズのミッキー・ドレンツはこう語っている。

「本当に腕が良くて甘えが一切なかった。だから重宝されたんだ」


フィル・スペクターのレコーディング・セッションでは、ハル・ブレインやラリー・ネクテルを筆頭にレッキング・クルーのメンバーが参加して、かの有名なウォール・オブ・サウンド(Wall Of Sound)を作り上げた。

ハル・ブレインはフィルの名曲「ビー・マイ・ベイビー」(歌:ロネッツ)で、ポップス史上に残る屈指のイントロとされるドラムを叩いていた。

多芸なラリー・ネクテルはキーボードとベースをこなしたが、サイモンとガーファンクルの名曲「明日に架ける橋」のイントロのピアノが有名だ。

アメリカのオフィシャル・サイトのディスコグラフィによれば、ラリーは1stアルバムの『モンキーズ(Monkees)』ではベースを、2ndアルバム『モア・オブ・ザ・モンキーズ(More Of The Monkees)』ではオルガンを弾いていたと記されている。

そんな彼らの活動をモチーフとしたドキュメンタリー・フィルムが、2月13日より日本で公開されることになった。


モンキーズは日本でもデビュー直後から、とくに女の子たちに人気があった。
ちなみに日本のモンキーズ・ファンクラブが公募して結成されたバンドが、1968年8月にデビューしたGSのザ・フローラルだった。

そして細野晴臣と松本隆がフローラルから脱退して結成したのが、日本語のロックを確立させるはっぴいえんどである。

<参照・GSのザ・フローラルからエイプリル・フールを経てはっぴいえんどへ至る道

モンキーズのリバイバル・ブームが日本で巻き起こったのは解散して10年が過ぎた1980年のことで、コダックのCMで「デイドリーム・ビリーバー」が使われたことがきっかけだった。
その後は忌野清志郎の日本語によるカヴァーが、今でもセブンイレブンではCMに使われてスタンダードになっている。

<参照・日本でスタンダードになった、日本語のデイドリーム・ビリーバー

「ビー・マイ・ベイビー」ロネッツ



●この商品の購入はこちらから

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SONG]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ