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「帰って来たヨッパライ」と「コブのない駱駝」に託されていた北山修と加藤和彦からのメッセージ

2016.03.04

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加藤和彦が2009年10月に亡くなった後、きたやまおさむは「もう音楽をやめてしまおう」と思っていた時期があったという。
しかしザ・フォーク・クルセダーズの曲をレパートリーにしているバンドや、加藤和彦と二人で作った歌を聴いて育ったアーティストたちに出会うことで、 もう一度音楽をやろうという気持ちになることができたのだった。

この10年くらいの間にTwitterとかLINEだとかが登場したことによって、言論の自由というものが進んで、言葉に対する感じ方が急に変わってきたと思うんです。
それまでは言葉にすることが怖くて、もの凄く不自由に感じることが多かったんだけれど、今や自由と言えばいいのか、垂れ流しと言った方がいいのかというような状況。
こういう時だからこそ、本当に言わなければいけないこと、歌にすべきこと、作詞というものの質が問われると思います。(きたやまおさむ)


3月1日に日本武道館にて開催された「オールナイトニッポン ALIVE ~ヒットこそすべて~」は、音楽出版社「フジパシフィックミュージック」の創立50周年記念コンサートでもあった。
オープニング曲に選ばれたのはザ・フォーク・クルセダーズ(フォークル)のデビュー・シングル、オールナイトニッポンから集中的にオンエアされて、1967年から翌年にかけて空前の大ヒットを記録した「帰って来たヨッパライ」だった。

歌ったのはフォークルのオリジナル・メンバーだったきたやまおさむとTHE ALFEEの坂崎幸之助。
この二人は亡くなった加藤和彦の追悼企画アルバム『若い加藤和彦のように』を発表したとき、「第四次フォークル」を結成している。

こうして幕を開けた音楽出版社の歴史をたどるコンサートは、泉谷しげる、宇崎竜童、小田和正、鈴木雅之、ラッツ&スターの佐藤善雄と桑野信義、稲垣潤一、EPO、平松愛理、藤井フミヤ、ウルフルズ、Superflyが登場して、歴史に残る楽曲を披露するパフォーマンスが繰り広げられた。

そのなかには大瀧詠一のコーナーが設けられて、彼がプロデュースしたシュガーベイブの名曲「DOWN TOWN」が、山下達郎のライブ映像で流された。
また坂崎幸之助/EPO/平松愛理によるユニットによる『空とぶ・ウララカ・サイダー』のメドレー、稲垣潤一の「バチェラー・ガール」、鈴木雅之による「冬のリヴィエラ」のカヴァーが、大瀧にリスペクトをこめて捧げられた。

終盤にはフジパシフィックミュージックの礎となったソングライター、フォークルの創設メンバーだった加藤和彦に敬意を表して、坂崎幸之助/EPO/平松愛理によって『白い色は恋人の色』が歌われた。

再び登場したきたやまおさむが坂崎幸之助とフォークルの『コブのない駱駝』と『悲しくてやりきれない』を歌い、最後は出演者全員によるスタンダード・ソング「あの素晴しい愛をもう一度」の合唱で幕を閉じた。

終わってみればひとつひとつの楽曲へのアーティストの思いが伝わってくるコンサートだったが、そのなかでただ1曲、ヒット曲でもなければスタンダードでもない「コブのない駱駝」が特に印象に残った。

「昔アラビアにコブのない駱駝と鼻の短い象と立って歩く豚がいました 彼等は自分のみにくさを嘆きアラーの神に祈ったのでした」という語りから始まった歌は、発表からもうすぐ50年にもなるのに少しも古さを感じさせないどころか、新鮮ですらあったのだ。

コブのない駱駝
きたやまおさむがこの歌をあえて今の時代に歌ったのは、”本当に言わなければいけないこと、歌にすべきこと、作詞というものの質が問われる”という、50年前に歌が生まれたときと気持ちが同じだったからなのかもしれない。

白井貴子ときたやまおさむによるアルバムの制作が昨年の暮れから始まっている。そのレコーディングの合間に、きたやまおさむが語ったこんな言葉がよみがえってきた。

加藤和彦と「帰って来たヨッパライ」を作った時の感覚、これを大事にしたいと思うんです。
初めから大きなものを作ろうと思わずに、小さなところからスタートしても、結果的に大きなメッセージは発信できる。
「みんなのために」ではなく、「私たちのために」歌を作りたいと思いますね。


きたやまおさむは今も現役で新しい歌作りに挑んでいる。

(注)本文中の発言は2月2日に東京都内で行われた、きたやまおさむ氏と白井貴子さん、それに筆者による鼎談の原稿によるものです。

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