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赤ん坊をあやして寝かしつける母の子守唄「サマータイム」

2013.11.01

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1935年9月に初演されたオペラの『Porgy and Bess』(ポーギーとベス)は、アメリカ南部の港町にある黒人居住区を舞台にした作品で、オペラの歴史の中で初めて黒人が主人公となったという意欲作だった。

奴隷制度が廃止されてもいっこうに黒人差別はなくならず、閉塞感や絶望感を前に厳しい暮らしを強いられる貧しい人たちの生きる様を、
作曲家のガーシュウィンはゴスペルやジャズ、クラシックの要素を掛けあわせてわかりやすい楽曲に仕上げた。

不自由で貧しくとも心優しい青年ポーギーと、麻薬中毒の娼婦ベスによる悲恋物語の第一幕が始まってすぐの場面、
赤ん坊をあやして寝かしつける母の子守唄として歌われるのが、「Summertime」だ。

夏になって 暮らしが楽だよ

魚が跳ねてるし 綿も背が伸びてる

あんたの父さんは金持ち あんたの母さんは美人

だから坊や 泣かないで


貧しい暮らしがゆえに「夏は暮らしが楽」というのは現実を歌ってるが、「父さんは金持ち」で「母さんは美人」は子守歌に託した儚い願望だろう。
そこには赤ん坊を安心させるための嘘と、一縷の望みの切なさとが一緒になっている。

しかし芝居が進んで三幕に入ると、母も父も死んだ後に残された赤ん坊を抱くのは娼婦のベスになる。
同じ歌詞なのに、その歌から受ける印象はささやかな希望ではなく、深い絶望へと変化している。

初演の翌年にアメリカを代表する黒人ジャズ・シンガーのビリー・ホリデイがカバーし、それをきっかけに広く世に知れ渡ってスタンダードとなった。

気だるい雰囲気を感じさせるビリーとは違って、情感たっぷりに歌うエラ・フィッツジェラルドを筆頭に、ジャズやクラシック、ロックといった壁を超えて、数えきれないほど多くのシンガーによって歌われている。
白人が歌ったものでは魂を振り絞るかのようなジャニス・ジョプリンのヴァージョンが圧巻。
インストゥルメンタルでも数々の名演が残されているが、マイルス・デイビスのヴァージョンは「クール・ジャズ」という新しいスタイル完成させたと言われた。

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