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キャンディーズに提供した「やさしい悪魔」を直ちにセルフ・カヴァーした吉田拓郎

2024.03.25

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1977年4月21日に発売になったLP『キャンディーズ 1 1/2〜やさしい悪魔〜』の帯には、「拓郎、ビートルズからラン・スー・ミキまで 話題の特別企画」というコピーがついていた。

3月1日にシングル発売されてヒットした吉田拓郎の作曲による「やさしい悪魔」のほか、ビートルズなど洋楽のカヴァー曲、メンバーが作詞・作曲に挑戦した楽曲が入った内容だったからである。



キャンディーズの本格的なブレイクで湧いていたファンの間に、予想外の衝撃が走ったのは、その年の7月17日だった。
日比谷野外音楽堂のコンサートの最後に、彼女たちは涙を流しながら突然の解散宣言を行ったのである。

そんなキャンディーズにとって「やさしい悪魔」は、解散宣言を発表する以前に最も売り上げがあったヒット曲だった。
これは所属していた渡辺プロダクションの渡辺晋社長が、「3人を大人にしてくれ」と作詞家の喜多條忠に頼んだことで誕生したと言い伝えられている。

喜多條は「全面的に任せる」と言われたので、「網タイツ姿で歌わせてもいいか」とほぼダメ元で提案したらしい。
ところが渡辺晋からはその場で、「構わないと言われて驚いた」と後に振り返っている。

そうしたゼネラル・プロデューサーの要望に応えて出来上がった歌詞だったから、確かにそれまでとは違って大人の雰囲気を醸し出すものとなった。
そこに吉田拓郎のメロディがついたことで、キャンディーズらしい傑作が生まれたのである。

作曲を手がけた吉田拓郎のリズムとメロディーもまた、歌謡曲の職業作家と比べるとやはりどこかに違いを感じさせる。
特に「あの人は悪魔(Ahh)私をとりこにする(Woo)」と語尾を強調する歌い方や、「(Woo) ふたりの影はやがて ひとつの(WohWohWoh)」という譜割りには、ロカビリー全盛時代の和製ポップスや「上を向いて歩こう」などにも通じる懐かしさがあったのだ。

当時はフォーク歌手と呼ばれていた吉田拓郎だが、音楽のルーツにはロックンロールやR&Bのほか、日本の歌謡曲までふくまれていた。
洋楽やロック、フォークを好む高校生や大学生から大人にまで、キャンディーズのファン層がここで広がったのは、そんなところにも要因があったのではないか。


その当時に人気が爆発していたピンク・レディーが、ヒット曲を出すごとにファン層が低年齢化していったのとは対照的だった。
「3人を大人にしてくれ」というゼネラル・プロデューサーの希望は、こうして「やさしい悪魔」で叶うことになった。

しかし、斬新さを打ち出したために歌唱の難易度は高く、レコーディングでの歌入れが難航したという。
吉田拓郎もオケ録りのときから、イントロの靴音を録音する際に様々な靴で何度も試行錯誤するなど、サウンドへのこだわりを見せた。

ギター持参でスタジオに入った吉田拓郎は付きっきりで歌唱指導したが、各メンバーの力を存分に引き出そうとしたことで、コンディションのすぐれなかった伊藤蘭が泣き出すシーンもあったという。

その厳しさがあったからこそ、美しく調和がとれたハーモニーとごきげんなビート感が程よくマッチングした、絶妙の仕上がりになったのだろう。
このときの吉田拓郎は単なる作曲家としてだけでなく、プロデューサー的な関わりも十分に意識していたと思われる。

それは1972年に大ヒットした「結婚しようよ」のときにアレンジを引き受けてくれた、元ザ・フォーク・クルセダーズの加藤和彦が、スタジオあったイスを叩いて鳴らしてみて、気に入った音を効果的に使ったのを目の当たりにして、「目からウロコでした。パッ、と目の前の音楽観が広がった」と語った体験にもつながるエピソードだった。

(参照コラム・吉田拓郎が”音楽の師匠”と呼ぶ加藤和彦との出会いから生まれたヒット曲「結婚しようよ」

なお「やさしい悪魔」がヒットしていた1977年4月25日、吉田拓郎は他の歌手への提供曲などをセルフ・カヴァーした楽曲を中心に、石原裕次郎の「夜霧よ今夜も有難う」や郷ひろみの「よろしく哀愁」なども唄ったアルバム『ぷらいべえと』を発売している。

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そこにはキャンディーズの「やさしい悪魔」がしっかりと収められていた。
キャンディーズのアレンジとは雰囲気が違ってシンプルなギターサウンドだったが、それを実にサッパリとした感じで唄っているのが吉田拓郎らしいところだ。

またアルバムのジャケットを飾ったのも、吉田拓郎自身が描いた伊藤蘭の絵だった。


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