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レス・ポールによる飾り気のないアレンジで劇的な変貌を遂げた「ヴァイア・コン・ディオス」

2023.08.13

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常識破りのギタリストだったレス・ポールは、新しいサウンドの探求者で発明家でもあった。

彼の名前が付けられたエレキギター、ギブソンのレスポール・モデルは今もなお永遠の輝きを放っている。

彼が始めたテープレコーダーによる多重録音も、今では世界中のレコーディングで普通に行われている。
多重録音されたギターの音に電子的なエコーをかけて、そのサウンドを何倍も、何十倍も魅力的なものにしたのもレス・ポールだ。

もうひとつ、彼がそれまで常識をくつがえしたのはヴォーカルの録音方法だった。
ヴォーカリストはマイクから2フィート(約60センチ)離れた位置で歌わなけばならないという、レコード吹き込みの鉄則を破って、夫人であるメリー・フォードをマイクから至近距離に立たせたのだ。

それは彼女の息づかいまでも明瞭に録音するためで、1960年代以降にマルチトラック・レコーディングが始まると、その方法が基本となった。

そんな多重録音によるギター・サウンドとヴォーカルによる最大のヒット曲が、1953年の「ヴァイア・コン・ディオス(Vaya Con Dios)」である。


ヴァイア・コン・ディオスとはスペイン語で「「神様のご加護を」とか「神様におまかせ」という意味で、日常的には「気をつけて」とか「良い旅を」として使われていた。

公演先から帰る車のラジオから流れてきたその歌に出会ったレス・ポールは、すぐラジオ局に電話して誰の何の曲かを調べた。

原曲は1952年にバディ・ペッパーとラリー・ラッセルが作詞、イネス・ジェームスが作曲したスローなラテン・ナンバーで、ジャズ歌手のアニタ・オデイが最初に吹き込んだがレコードは不評で売れていなかった。

しかしレス・ポールは自分のギターとメアリーのヴォーカルなら、絶対に売れるはずだと確信した。
そこで契約していたキャピトル・レコードの重役、ハル・クックに電話で「次のシングルはヴァイア・コン・ディオスにする」と伝えた。

ハルはそれに対して、アニタ・オデイのものよりもゆっくりした感じにするようにと忠告した。
「その曲を聴いたことがあるのか」とレス・ポールが問いかけると、ハルは長い沈黙の後で「ウチが出したんだよ」と答えた。


レス・ポール&メリー・フォードのシングル盤は6月にチャート入りすると、1953年8月8日付で全米1位になり、9週にわたってトップをキープするミリオン・セラーとなった。

シンプルな伴奏をバックに飾り気のないアレンジで劇的な変貌を遂げた「ヴァイア・コン・ディオス」は、美しいハーモニーのおかげで一度聴いたら忘れられないくらい印象的になったのだ。

その後もトリオ・ロス・パンチョス、ナット・キング・コール、ビング・クロスビー、コニー・フランシス、フリオ・イグレシアス、ジョニー・キャッシュなど、数多くのシンガーがレコーディングしてスタンダード・ソングになった。

日本でもアメリカで大ヒットした同じ年に江利チエミがカヴァーしているが、スペイン語と英語と日本語とが混じり合って、不思議な魅力をかもし出している。


最近では2011年のジェフ・ベックとイメルダ・メイによる、「レスポール・トリビュート・ライヴ 」(Rock & Roll Party: Honoring Les Paul)のライブ・ヴァージョンが有名だ。






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