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越路吹雪、美輪明宏、大竹しのぶ、それぞれが定番にしたエディット・ピアフの「愛の讃歌」

2016.12.30

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シャンソンの名曲として世界中で親しまれている「愛の讃歌」は、越路吹雪の歌によって日本でも1950年代前半から60年代にかけて、広く親しまれて浸透していった。

ところでエディット・ピアフが歌った原詞では、『愛のためなら宝物を盗んだり、国や友を裏切り、笑われたって何でもする』と、壮絶なまでの愛が描かれていた。
しかしそのまま日本語にしたのでは、当時の日本人の感覚にはそぐわないところがあった。
演出家からはショーのラストを飾るので、華やかさを要求されてもいた。

そのために急に訳詞を頼まれた越路吹雪のマネージャー、岩谷時子は暗さや重さをなくして思い切った意訳を選ぶことにした。
こうして女流作詞家のパイオニアとなる岩谷らしい、日本人向けの「愛の讃歌」が誕生したのである。
〈参照コラム〉岩谷時子を偲んで〜初めての訳詞経験、あの「愛の讃歌」の誕生秘話〜

一途な愛をつらぬく女性の人生を謳った「愛の讃歌」は多くの日本人の琴線に触れて、シャンソン歌手ばかりでなく、ポップスや歌謡曲の歌手たちにまで歌い継がれていくのである。

しかしピアフの生涯に深く傾倒していたシャンソン歌手、丸山明宏(現・美輪明宏)は原詩と内容がかけ離れていることが、どうしても気になった。
原詩に込められた強い訴えや愛の重みを日本人にもわかってほしい、そう思った美輪明宏は自分で原詩に忠実な歌詞を訳し、約半世紀にわたってずっと歌い続けた。

それが長い歳月を経て脚光を浴びたのは、2014年夏のことだった。

NHKの連続テレビ小説『花子とアン』のなかで、一切の台詞や音をなくした駆け落ちのシーンに、美輪明宏の「愛の讃歌」がフル・コーラスで流れたのだ。
視聴者の意表をついた演出で使われた「愛の讃歌」は、SNSなどで大きな反響を呼んだ。

年末のNHK紅白歌合戦でも、美輪明宏が「愛の讃歌」を歌って評判になった。


女優の大竹しのぶが初めて舞台『ピアフ』に挑んだのは2011年だった。
エディット・ピアフが憑依したかのように歌って演じた大竹しのぶは演劇界で大いに話題になり、その年の読売演劇大賞では主演女優賞を受賞した。

そして再演を重ねることで、ピアフは定番となっていった。

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その歌詞はオリジナルに忠実なものだが、美輪明宏のヴァージョンとは異なっている。

「ピアフという人間が生まれて、死んで、残したものをお客さんに渡したい」という大竹しのぶの場合、女優の演技を超えて放たれるリアルな歌が真骨頂だ。

ピアフのオリジナルがレコーディングされたのは1950年だというから、誕生からすでに66年もの年月を経ていることになる。
にもかかわらず日本では三者三様、それぞれのヴァージョンがいまも強い生命力を持ち続けている。

そうした事実からは、歌というものが持つ力の神秘性、究極のラブソングの普遍性を感じずにはいられない。


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