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矢沢永吉の世界にダンディズムと哀愁を見出した西岡恭蔵①~「ライフ・イズ・ヴェイン」

2023.04.02

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矢沢永吉と出会ったきっかけについて、生前の西岡恭蔵は「ディレクターの方とか矢沢本人とかが作詞をする人を捜してたんてすよね。で、その中にピックアップされて、今も続いている」と述べていた。
それはキャロルが解散して、矢沢永吉がソロになる直前のことであった。

初めて逢ったときの印象は、エネルギッシュな人だなぁと思いました。彼と別れてからもしばらくそのエネルギーが残って離れなかったというか、あんなにエネルギーのある人ってなかなかいないと思うんてすよね。オーラとかうものが本当にあるのかどうかは、分かんないてすけど、なんかこう放つものてすかね、そういうものが強かったです。


矢沢にとってソロ・アルバムは大きな賭けであった。
日本で初めて成功したロックンロール・バンドのキャロルを解散すると決めたとき、矢沢はバンドでは燃焼しきれなかったものを、1枚のアルバムに表現しようとしたのだ。

物事を決定したらすぐさま行動に移す、その決断と行動力において矢沢の本領が発揮される。
さっそくアマチュア時代からの知り合いだった相沢行夫に声をかけて、ソロ・ライブにおけるバンドのツアー・メンバーを集める一方で、アメリカでレコーディングする12曲のデモテープを用意した。

矢沢は「キャロル解散が、俺の中で決まった時、すぐにアメリカ行きを考えた」と、アルバムが完成した直後のインタビューで語っていた。
デモテープを送った相手は『ある愛の歌』や『ゴッドファーザー』などをプロデュースしたトム・マックだったが、まもなくオーケーの返事をもらったことで渡米する。

アルバムが出来上がるまでにかかったのは2週間だったが、、それしか時間を必要としなかったのはレコーディング前の段階で、過剰なくらい入念に準備をしていたからだ。

もうひとつ、短期間で完成した理由はアメリカのミュージシャンとのコミュニケーションが上手くいったことも大きかったという。
たとえば弦のミュージシャンたちはいずれも高齢で、頭のすっかりはげた人も多かったのだが、矢沢は日比谷野音でのキャロル解散コンサートのビデオを見てもらった。
すると「わかった、お前のことは!」「ヤザワ、わかったよ」と、みんなが口々に言ってくれたのだ。

ロサンゼルスのA&Mスタジオで完成したテープを持って帰国した矢沢は、ツアー・メンバーに選んだ相沢行夫のほか、西岡恭蔵と松本隆に作詞を依頼していた。

そのなかに「♪ ドレミファソラシド~」と始まる、実にシンプルなメロディの楽曲があった。
そこに付けられた西岡の歌詞は「♪ 夜中のハイウェイで奴は死んだ」という、アメリカン・ハードボイルドを思わせる意外なフレーズだった。

矢沢はそれを最後まで唄ってみて、西岡が秘めている作詞家の才能を確信したに違いない。
短い歌詞の奥にはさりげなくも壮大な物語が、静かに横たわっていたのである。

これがアメリカを舞台とするのであれば、夭折した映画スターのジェームス・ディーンの物語になるだろう。
だが当時の日本ならば、世界王者のまま交通事故で亡くなった若きチャンピオン、ボクシングの大場政夫を思い浮かべる人が多かったはずだ。

スポーツカーを運転していた大場が首都高速で即死したのは、1973年1月25日のことだった。享年23。
ちなみに西岡の誕生日は1948年5月7日 、矢沢は1949年9月14日、大場は1949年10月21日、ほぼ同世代であった。

大場は食べることにも苦労するほどの極貧家庭で育ったが、プロボクシングで世界王者になって両親のために家を建てようと決意し、中学卒業後に御徒町の菓子屋で働きながらジムに通って腕を磨いた。
そして6年後には世界の頂点にまで登りつめてWBA世界フライ級チャンピオンになり、それから5度の防衛戦を勝利したヒーローであった。

しかし、約束どおりにファイトマネーを貯めて両親に家をプレゼントした後、現役王者のまま大場はひとりで逝ってしまった。

矢沢はアルバム『アイ・ラブ・ユー、OK』が完成した段階で、早くもセカンドアルバムの準備に入っている。

「洋楽のレコードを聴いていると、どれを聞いても色気がある。ヴォーカルは色気だ。そんな色気のあるレコードを作りたい」


セカンド・アルバムの歌詞は全11曲のうち、西岡には5曲が依頼されることになった。
西岡はこの時、どうすれば男の色気が引き出せるのかに取り組んで、ふたりともが納得のいく名曲「A DAY」が誕生してくる。





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