TAP the SONG

「あなた」~ポプコンと世界歌謡祭の方向を決めたのは小坂明子がガロのために書いた曲

2016.12.23

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名古屋の高校生だった小坂明子が歌った「あなた」が、ヤマハが主宰するポピュラー・ミュージック・コンテスト(通称・ポプコン)の「第6回合歓本選会」で、グランプリに選ばれたのは1973年の10月14日のことだ。  
     
小坂明子はそれから30数年の時を経て、自身のブログでこんな気持を明かしている。

毎年、金木犀の香りがする季節になるとポプコンのことを思い出す。私が「あなた」でグランプリを獲得したのは16歳の時だった。「合歓の郷」最後のポプコン出場、この年の10月14日に私の人生は大きく変わったと言っても過言では無いだろう。
そもそも「あなた」という曲は私の作詞・作曲、処女作だ。 まだロクに活動のキャリアも無い私にとって、このポプコンは本当にたくさんの刺激を与えられた楽しいフェスティバルだった。

(引用元・POPCON http://www.popcon.jp/artists/archive021.html)


父がミュージカルやCM音楽を手がけていた作曲家で、10歳上の姉と8歳上の兄がビートルズ・エイジだったことから、小坂は洋楽やポップスが飛び交っている音楽環境に育った。

歌に興味を持ち出したのは小学校4年生のとき、ジュリー・アンドリュース主演のミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』を観て、なんて素晴らしい歌声だろうと感銘を受けたのがきっかけだったという。

トワ・エ・モアや赤い鳥といった日本のグループの歌を聴いて、中学3年から高校に入った頃に共感して「いいなぁ」と思うようになった。

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1969年から3年行われた「作曲コンクール」を前身とするポプコンは、プロとアマチュアが書き下ろした作品を、プロの歌手が歌うというスタイルだった。

入賞作品のリストには黛ジュン、弘田三枝子、上條恒彦、ヒデとロザンナ、モップス、麻生レミなどの名前が並んでいる。
そこにアマチュアだったジ・オフコース(後のオフコース)の名前なども出てくる。

だから小坂は「あなた」を応募した時、歌ってもらう歌手のところに「ガロ希望」と書いたのである。
人気グループのガロに歌ってもらえるかもくしれない、そう思ったのがそもそもの動機だった。

もちろん父には内緒だった。
しかしガロに歌ってもらう希望はかなわず、自分で歌うことになったのが功を奏してグランプリに選ばれた。

ポプコンや「世界歌謡祭」の審査員をアマチュアに限るようになったのは、主催するヤマハ音楽振興会を興したヤマハの社長、川上源一の意図によるものだった。
自著「子どもに学ぶ~親と教師のために」(ヤマハ音楽振興会)のなかで、川上ははっきりこう語っている。

世界的に知られている専門家などは、横のつながりがありフェアでなくなる恐れがあるとみたこともある。しかし何よりも、アマチュアの人達が、心から感動する歌、いいと思う歌こそが、私たちが求めている歌であるはずだ、という確信が、私にはあったからである。これはポピュラーソングコンテストでも同じことであり、審査員はすべて、アマチュアの人たちにお願いしている。


今後はこういう音楽が流行しそうだとか、新しいサウンドはこれだとか、専門家によって偏った方向に行かないように配慮したのだ。
それまでレコード会社が主導で、専属作家の結びつきがないとレコード制作も販売も、なかなか手を出せない状態だった音楽シーンに、川上はヤマハの力で日本のすぐれた楽曲を世の中に広めるルートを開発しようと考えてもいた。

そしてアマチュアにこそ広く門戸を開いて、新しい才能を発見したいと思っていた。

そこに現れたのが16歳の高校生、小坂が素朴な発想で歌う「あなた」だった。
まだ虚飾にまみれていない、素朴な感情を揺り動かす小坂の歌によって川上の願いが初めて実現する。

「あなた」はポプコンだけでなく、11月18日に開催された第4回世界歌謡祭でもグランプリを受賞したのだ。
しかもその後に発売されたシングル・レコードは、100万枚以上の売上を記録する大ヒットになった。

それらのことについて川上は、自著のなかでこう自画自賛した。

音楽という世界共通の言葉で、イデオロギーや人種の違いを超え、有名無名も、プロもアマも問わないで、人々が歓びを分かちあう場を、この東京に作ることができたのであった。


川上は翌年のポプコンからはプロの歌手を外し、アマチュアのシンガー・ソングライターやバンドを見出すコンテストに変えた。
そのために世界歌謡祭もまた、ポプコン出身者の登竜門のようなものへと変容していく。

それから2年後、中島みゆきが登場してくる。







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