TAP the SONG

ブラジルの貧民街とアメリカの刑務所で撮影されたマイケル・ジャクソンのショート・フィルム

2017.04.07

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1995年のアルバム『ヒストリー』に収録された「They don’t care about us(彼らは僕らのことなんて考えちゃいない)」は、妥協を許さない表現者としてのマイケル・ジャクソンの姿勢が打ち出されている楽曲だ。

世界の人々が現実に直面している差別や暴力といった問題を、マイケルは他人事ではなく自分のこととして考えて、不条理や不公平を許さないという気持ちを込めて音楽にした。

そのメッセージ性をさらに強調していたのが、スパイク・リー監督によって撮影されたふたつのまったく異なるショート・フィルムだ。
スパイク・リーに「ミュージック・ビデオではなくショートフィルム」を作ってほしいと依頼したのは、マイケル本人だった。

そこでリー監督は歌詞に忠実でメッセージ性の強い「プリズン(刑務所)・ヴァージョン」のほか、この歌のポジティブな面に光を与えるために、一緒にブラジルへ行ってパーカッション・チームのオロドゥンを演奏に起用するアイデアを出した。

オロドゥンはブラジルの東部、バイーア州にあるサルヴァドール市で暮らすアフリカ系ブラジル人のコミュニティから生まれたグループである。

マイケルがやってきてオロドゥン

1979年に設立されたときの目的は人種差別と戦い、アフリカ系ブラジル人であることを誇りに思い、そして社会から孤立したすべての人たちの市民のために活動することに置いていた。

しかしまもなく活動が停止状態になったところで、ネギーニョ・ド・サンバというパーカッショニストがバンド・リーダーを引き継いだ。
そして貧しいストリート・チルドレンに生活の場を提供する一方で、音楽療法として打楽器バンドを作って発展させて活躍の場を広げた。

マイケルのフィルムを製作するにあたっては、まずサルバドールのペロウリーニョ広場が撮影地に選ばれた。
ポルトガルがブラジルを植民地していた時代に、コーヒー栽培のためにアフリカ人奴隷を売買していたのがペロウリーニョ広場だった。

オロドゥンのパーカッションを加えたことで、集まった人々は撮影のための曲が終わっても、ずっと踊り続けたという。
マイケルが着ているTシャツも「オロドゥン」だ。
なおボブ・マーリーの服に黄色いキャップをかぶって、オロドゥンの子どもや若者たちを指導しているのが創始者のネギーニョである。



リオ・デ・ジャネイロではファヴェーラと呼ばれる、山腹にある貧民街でロケが行われることになった。

ところがブラジル政府は当初、ファベーラでの撮影に許可を出さないという方針を打ち出した。
貧困が蔓延して治安が悪い地域の良くないイメージが全世界に広まることを恐れたためだったが、地元の住民たちがそれを機に環境や衛生などに関心を高めて行動したことから、政府も許可してマイケルがやってきて撮影は無事に行われた。

リオのファヴェーラを舞台にして、そこに住む人たちを出演者として使ったことで、都市における貧困の問題を目に見える形にしたこのショート・フィルムからは、音楽によって世界を少しでも変えようという熱気とエネルギーが伝わってくる。

一方の「プリズン・ヴァージョン(監獄バージョン)」は、実際にアメリカの刑務所内で撮影されたものだ。
このフィルムにはその半世紀前、常に反骨の魂を持ち続けて弱者の側に立って歌い続けたジョニー・キャッシュの伝説的な刑務所コンサートにも、どこかで相通じているヒリヒリした緊張感がある。

しかも冒頭から目を背けたくなるような現実として「ロドニー・キング事件」や「ロス暴動」、「天安門事件」の映像をはじめ、戦争や暴動、虐待などの映像が多く使われていた。
そのことからこのショート・フィルムは当時、暴力的であるとしてMTVでは放送されなかったという。




参照コラム*ジョニー・キャッシュ~囚人をも魅了する反逆のカリスマ

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