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追悼・加川良~かまやつひろしをカヴァーした「どうにかなるさ」からにじみ出てくるリアリティ

2024.04.03

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加川良はシンガーやシンガー・ソングライターであると同時に、普通の生活をする市井の人であった。
歌を作ってうたうという仕事を、特別なものとしてはいなかった。
だから音楽もまた、普通の生活の中にあった。

いっときフォークシーンで脚光を浴びたことがあっても、そこで舞い上がることもなく醒めていた。
そして華やかなショービジネス界や芸能界からはまったく無縁に、生活者として生きてうたい続ける道を選んだ。

いつも加川良は醒めていたし、自分の歌にも酔うことはなかった。
彼の歌の世界は虚構ではなく、まぎれもない現実であった。

どこまでいってもマイナーな存在であることを守り続けたのは、マイナーであっても自分の歌が伝わるべき人には伝わる、そんな自信があったからだろう。

歌詞の中に登場する人や彼の生き方に共感する人と、ほんとうに歌を共有できればそれで良かったにちがいない。

社会からこぼれ落ちそうになったり、はみ出たりしそうになっている人の心のなかで、カタチに出せずにたまっている嘆きや悩みを、加川良はさまざまな歌にした。
それらの人たちはどこかに屈折や影をただよわせ、寂しげな横顔を持っていた。

また高田渡の「生活の柄」や泉谷しげるの「春夏秋冬」などのカヴァー曲からは、自分が書いた言葉ではないゆえに、加川良というシンガーの突出した表現力が伝わってくる。

僕にとっての音楽っていうのはね、音楽を聴こうとしてないときに、たとえばパチンコ屋、食堂、喫茶店などで、ふっと耳に入って “えっ、誰これ? ” って思わせてくれるもの。メロディが良いとか言葉が綺麗だねっていうのが基本的には大事なことかも知れませんけど、僕にとってはそういうものが音楽なんです」


3月に亡くなったかまやつひろしの「どうにかなるさ」を去年の10月8日、シカゴ大学のフルトンホールで歌ったヴァージョンがある。
それを聴くと歌詞の主人公が加川良に引き寄せられて、その歌声と歌いまわしから新たなリアリティがにじみ出ているのがわかる。

加川良ならではの流れ者の歌、ホーボー・ソングになったとも言える。


1972年のアルバム『親愛なるQに捧ぐ』には、「こがらし・えれじい」という楽曲がある。

これはオリジナル曲を歌うときの醒めた意識とは逆に、絞り出すかのようなうめき声のなかに、熱い魂が込められた加川良のブルース・ロックだ。
「焼きそば20円、焼酎が25円で」という歌にリアリティを持たせるのは、社会の底辺で生きる生活者への共感と、彼らを見つめる視線の確かさによるものだ。

そうしたところに一度も振れがなく、優しさを保ってうたい続けてきた加川良の歌は、これからもさまざまな人たちに継承されていくことになるだろう。

撮影 吉村輝幸
撮影場所 下北沢ラカーニャ


(注)加川良さんの発言は『特集 にほんのうた 加川良インタビュー』からの引用です。


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