「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SONG

50年の歳月を経て新しく生まれ変わった『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』

2017.05.19

Pocket
LINEで送る

1967年6月1日、ザ・ビートルズは『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を発表、イギリスのアルバム・チャートでは27週にわたって1位の座をキープした。

アメリカのチャートでも6月24日から15週間も1位となって過去最大の売上を記録し、グラミー賞では「最優秀アルバム賞」「最優秀現代アルバム賞」「最優秀アルバム・カバー賞」「最優秀技術アルバム賞」を受賞した。

このアルバムは当時の音楽シーンにおいて画期的な作品のひとつであり、商業的に大成功しただけでなく高い評価を得たことから、世界のロックを変えたとまで言われている。



それから半世紀の歳月を経て2017年5月26日、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド -50周年記念エディション-』が世界で一斉に発売になる。
そのリリース資料には「歴史が再び変わる!」という文字があるが、実際に音を聴いてみると納得させられるコピーだった。

アナログ時代のレコード芸術の特徴は、音そのものが最良の状態できちんと録音されることによって、実は音以外のエネルギーと時代の息吹までが記録されるところにある。

アルバムのオープニングを飾る「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」には、ビートルズが修行時代にハンブルクのクラブで演奏していた頃を思わせるロックンロール衝動が感じられる。

この曲のレコーディングではダイレクト・インジェクション(略してDI)が実行されていた。
これはそれまでのようにアンプを鳴らしてその前にマイクを立てて録音するのではなく、楽器とレコーディング・コンソールとをダイレクトにつなぐ方法で、現在では当たり前に行われているが世界で初めてだったと思われる。

曲を作ったポールは本番を録音する時、ジョンに頼んで自分のかわりにベースを弾いてもらった。
イメージがはっきりつかめていたギターを自ら弾いて、全体でのOKテイクを録音してからベースを差し替えるためだ。

そこでエンジニアのジェフ・エメリックはジョンの弾くベースを、テクニカル・エンジニアが自作した変換ボックスを通してラインで録音した。
アンプの音がほかのマイクにまわりこんで録音されないように、ガイドで弾いたベースの音を完全に消すために考えた方法だった。

ビートルズの試したい方法を実現するためにスタッフも一丸となって革新的な音作りに協力したところから、歴史に残る傑作が生まれたのだった。

4月10日にロンドンのアビイ・ロード・スタジオで行われたリミックスの試聴会で、ビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンが公開取材の場でこう語っていた。

「このテープを聞いたとき、鮮やかな音とパンチがあった、それを皆さんにも聞いてほしいと思った」




当時は4チャンネルしかトラックがないためにダビングを繰り返さざるを得ず、技術的な問題によってレコーディングには限界があった。
そのために商品として世に出たレコード、特にステレオ・ヴァージョンからは本来のパワー感やグルーヴが十分に伝わってこなかった。

しかしジャイルズ・マーティンはビートルズのメンバーたちやジョージ・マーティンの頭の中で鳴っていた理想の音を求めて、当時のモノ・ヴァージョンを21世紀のステレオ・ヴァージョンにしようと努めた。

オリジナルの4トラック・テープからダビングした音を剥がすようにして、もともとのテープに記録された音を12から16のトラックに再現したという。

今回のリミックスはビートルズが50年前にスタジオで注ぎ込んだはずの熱量を、音として記録してくれたスタッフによるていねいな仕事があってこそ、初めて可能になったといえる。

「テープの音が素晴らしかったから、50年前に彼らがやってきたことの評価を高めることができた。 非常に鮮やかなものになっているよ。ザ・ビートルズのサウンドは決して古くはならない、なぜならその作品が決して古くはならないから」


デジタル・レコーディング技術の進歩によって生まれ変わったステレオ・ヴァージョンで、いつまでも古くならない音楽に新たな命が吹き込まれた。



(注)ジャイルズ・マーティンの発言は「レコード・コレクターズ6月号」からの引用です。
〈参考文献〉川瀬 泰雄(著)「真実のビートルズ・サウンド完全版」(リットーミュージック)


ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(2CD)』
ユニバーサル ミュージックジャパン

『真実のビートルズ・サウンド完全版 全213曲の音楽的マジックを解明』

川瀬泰雄 著
『真実のビートルズ・サウンド完全版 全213曲の音楽的マジックを解明』




Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SONG]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ