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ジーン・ヴィンセントに出会った日本の若者たちが受けた「オーバー・ザ・レインボウ」の静かなる衝撃

2017.06.23

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1957年に日本でも公開された映画『女はそれを我慢できない』で、当時の若者たちの心をとらえたのは動くロックンロールの強烈な衝撃だった。

なかでも評判になったのがジーン・ヴィンセントと、彼のバンドであるヒズ・ブルー・キャップスのパフォーマンスである。

1956年に出た「ビー・バップ・ア・ルーラ」は日本の発売元だったキングレコードがほとんど宣伝しなかったこともあって、一般にはそれほどヒットしなかったが、盛り上がりつつあった日本のロカビリー・シーンでは圧倒的に評判が高かった。

日本のロカビリアンたちはこぞって映画『女はそれを我慢できない』の演奏シーンを真似たし、ファッションも取り入れた。
ジーンの特長であるしゃくりあげるヒーカップ唱法と、ブルー・キャップスのギタリスト、クリフ・ギャラップのギャロッピングというギター奏法は、シンガーやミュージシャンを目ざしていた多くの若者たちに大きな影響を与えていたのだ。



情報量の乏しい時代だったので、彼らはレコードを聴いて歌い方や演奏を研究し、レコーディングの方法も模索した。
1958年に爆発したロカビリー・ブームの牽引者となった”ロカビリー3人男”のミッキー・カーチスがこう語っている。

ここのエレキギターの人はすごいね。テクとフィーリングがね。
4人だけのメムバーでこれだけの効果を出すなんて無茶苦茶にすごいな。
僕の感じではこのヴィンセントと云うのはレコードでは最高にいかすけど、果たして実演でこれだけの効果が出せるかと云うことが疑問なんですよ


そのヴィンセントが突如として来日することになったのは1959年6月のことで、有楽町駅前にあった娯楽の殿堂、日本劇場でライブが行われることになった。

とはいっても現在のコンサートとは全く異なるショーへの出演で、恒例の日劇ウェスタンカーニバルのスペシャル版である。

6月23日から29日までの7日間、当時の日本ではもっとも人気があるロックンローラーに、観客以上に出演者たちの注目が集まった。

”ロカビリー3人男”の山下敬二郎が、来日を前にしてこう語っていた。

ともかく来てくれることがまだ夢のような気がして‥‥。
ともかくなんでもいいから歌ってもらえばいいと思うんです。
僕はそれを一生懸命きければ、それでいいな。
僕はあの映画をセリフ全部覚えるくらいみた。
でもやっぱりあのなかで一生懸命みていたのはヴィンセントの場面でしょう





そして6月23日、初日の日劇公演が行われたが、「実演でこれだけの効果が出せるかと云うことが疑問」といった心配は、まったくの杞憂に終わった。

当時の音楽誌「ミュージック・ライフ」に掲載されたライブレポートには、「ビー・バップ・ア・ルーラ」についてこう書いてある。

ハスキー・ボイスでものすごいビブラートをつけて歌う。
エコー・マイクなしであれだけ聞かせることができるということはやはりすぐれた特殊技能だ。
レコードで聞いたときはオーヴァーだと思ったけれど、ステージで聞くと割に淡々と歌って感じがいい。
声量はある方ではないが、それをちゃんと計算しているところなど、やたらにがなればロカビリーになると思っている日本の歌手にはいい勉強になったと思う。


期待していた通りに良かった「ビー・バップ・ア・ルーラ」に感心した日本人の歌手たちが、ショーの最後になって静かなる衝撃を受けたのは、まったく想像もしてなかった曲だった。

共演した平尾昌晃、山下敬二郎、ミッキー・カーチス、坂本九、清野太郎、守屋浩が「一番良いと思った曲は?」というアンケートに答えていたが、全員が「オーバー・ザ・レインボウ」と一致していたことに驚かされた。

ジュディ・ガーランドの代表曲で美しいスタンダード・ソングの「虹の彼方に(オーバー・ザ・レインボウ)」を、ジーンは情熱を内に秘めてロックのビートに乗せることで、観客の一人ひとりに届けてくれたのである。



力いっぱい叫ぶことが若さの特権だと勘違いするところのあったロカビリアンたちは、押すだけでなく引いて魂に訴えかけるという表現に驚くとともに、それを学んで自分たちのものにして日本のポップスを作っていく。

「ドリーム・ラバー」の歌い方をジーンから直に教えてもらった坂本九は、そのソフトでキューティな唱法によって「上を向いて歩こう」や「見上げてごらん夜の星を」という名曲をものにしていくことになる。



〈参照コラム〉オズの魔法使〜“虹の彼方”からやって来る圧倒的なイノセンスの世界

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