シナトラ晩年

TAP the SONG

「マイ・ウェイ」はフランス・ギャルとクロード・フランソワとの恋から生まれたフランスの歌

2015.07.10

フランク・シナトラの代表曲として知られる「マイ・ウェイ」を作ったのは、1960年代から70年代にかけてフランスで活躍した歌手のクロード・フランソワである。
1978年に39歳の若さで夭折したクロードは、現在もフランスが生んだ国民的スターとして愛され続けている。

クロードはスエズ運河の通行管理管として働く厳格なフランス人の父と、おおらかな気性のイタリア人の母との間に生まれた。
だがスエズ運河はエジプトのクーデターで1956年から国有化されて、一家は追放されるようにフランスへと移住する。

誇りを持っていた仕事を奪われた父は、生きる目的を失ったことで世捨て人となり、母はギャンブルにのめり込んで一家は困窮生活に陥った。
家族の生活を経済的に支えるために、クロードは地味な銀行員を辞めて音楽の道での成功を目指した。
彼が憧れていたのはアメリカのシンガー、「ザ・ヴォイス」と呼ばれていたフランク・シナトラだった。

シナトラ

南フランスやモナコでドラマーとして働き始めたクロードは、シナトラと同じようにバーやクラブの楽団でシンガーとして歌うようになり、次第に頭角を現していく。
ところがパリに出てレコード会社へ売り込みに行ってみると、クロードはお手本にしているシナトラがもう時代遅れだと指摘される。
1950年代後半のフランスではアメリカからやってきたロックンロールが、若者たちの間で大流行していたのだ。

商業的な成功を第一に考えて、クロードは最新のアメリカ音楽を研究した。
そしてエヴァリー・ブラザースの楽曲をフランス語でカヴァー、「ベル・ベル・ベル」を大ヒットさせて、「クロクロ」の愛称で一躍スターダムに乗った。

クロード・フランソワ

クロクロは子供の頃から身体で覚えたエジプト仕込みのリズム感を武器に、ラスベガスのショーを観てヒントを得た派手な衣装やパフォーマンスで独自のスタイルを確立し、次々にヒットをものにしていった。

ロックンロールだけでなくアメリカの黒人音楽やフォーク・ソングにも関心を広げ、「天使のハンマー」や「ドナドナ」などをリメイク、自分で書いたフランス語詞で歌った。

1967年にはシナトラ見習うかのように自らの手でレーベルを作り、音楽雑誌を発行してミュージック・ビジネスにも乗り出した。
そしてレーベル設立後に発表した最初のシングル盤が「いつものように」、それは恋人だったアイドル歌手のフランス・ギャルとの仲が破局を迎えたことから生まれた歌だ。

「正真正銘の気まぐれ人間、矛盾の塊。それが俺の人生だ。多少のツッパリと寂しがりやが同居しているんだと思う」と語ったのはシナトラだが、クロクロもまたツッパリと寂しがりやが同居している男だった。

フランス・ギャル

それから一日が終わり
ぼくは家へと帰ってくるんだ
いつものように
そして君は外出している
まだ帰ってきてはいないだろう
いつものように
たった一人で寝室へと向かう
冷え切ったベッドに潜り込むだろう
いつものように
今日一日の出来事を口にすることもなく
いつものように


心が離れてしまっているのをごまかして、”いつものように”生活する苦悩が描かれている歌は、それから2年後にアメリカで「マイ・ウェイ」として生まれ変わることになる。

自身のレーベルから発表した最初の曲という事もあって、クロードは音楽番組に出演した時には必ずこの曲を歌った。
それをバカンスでフランスを訪れていたカナダ出身のシンガーソングライター、ポール・アンカが発見して英語でリメイクしたのだ。

この曲から閃きを受けたアンカは、人生の節目を迎えた男が過去を振り返りながら、行く末に思いを馳せる歌詞を書きあげた。
そしてフランク・シナトラに提供する。

とても充実した人生だった
あらゆる道を旅してきたが
それ以上に私は自分の信じるままに歩いてきた


その歌詞はシナトラの円熟したヴォイスを得たことによって、アメリカが生んだ偉大なる歌手の53年の人生に重なり合い、原曲とは全く異なるドラマティックな世界を創出した。
大きなヒットにこそならなかったが、「マイ・ウェイ」はスタンダード・ソングとなって世界中に広まっていく。

フランク・シナトラに憧れて歌手を目指したクロード・フランソワが、フランス・ギャルとの別れを歌った作品が、めぐりめぐってフランク・シナトラに歌われたのである。

フランス・ギャルとクロード・フランソワという、フランスの若い人気歌手同士の恋から生まれた歌が、世界のスタンダードになったのは単なる偶然ではなく、音楽の魔法があったからだと思えてならない。


フランク・シナトラ「マイ・ウェイ(My Way)」(1969)

クロード・フランソワ「いつものように(Comme d’habitude)」

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