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阿久悠と中島みゆきによる「世迷い言」~”ヨノナカバカナノヨ”と日吉ミミが歌った回文歌謡曲

2017.09.09

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「世迷い言」は昔から伝わってきた「竹藪焼けた(タケヤブヤケタ)」や、「タイ焼き焼いた(タイヤキヤイタ)」などの回文を使った歌謡曲で、テレビドラマの挿入歌として作られた。

1978年に作られた連続ドラマの『ムー一族』(TBS系)は、全編を通してナンセンスな笑いとシュールなギャグが出て来る作品だった。
たとえばトップアイドルだった郷ひろみ扮する主人公斧一人、拓郎が「たまには気のきいた寝言でも言ってみるか」と、こんなことを呟いたりする。

「シンブンシ、タケヤブヤケタ」


『ムー一族』の放送が始まると、「私も考えました」と視聴者からテレビ局にはがきが届くようになった。
久世はそのなかにあった「ヘアリキッド、ケツにつけ、ドッキリ、アヘ!」という投書に感動し、すぐ採用して番組のなかでも紹介している。

番組のプロデューサーで演出家でもあった久世光彦は、上から読んでも下から読んでも同じという回文について、こう語っている。

「宇津井健氏は神経痛」とか、いろいろ回文をやりましたよ。そういう馬鹿馬鹿しいことを一生懸命考えるのが大好きだから。


久世から回文を織り込んだ歌詞を依頼されたのは、ピンク・レディーの「UFO」や「サウスポー」、沢田研二「憎みきれないろくでなし」や「ダーリング」といったヒット曲を手がけて、飛ぶ鳥を落とす勢いだった作詞家の阿久悠である。

決めの言葉は「世の中バカなのよ」と、初めから指定されていた。

詞を書く時、方向性とか狙いとかについては意見の交換はよくするが、具体的な詞の言葉について注文は受けない方である。しかし、相手が久世光彦では仕方がない。それに妙に面白そうなので引き受けたのである。引き受けた理由は「回文」だけじゃなく、TBS系テレビの人気ドラマ『ムー一族』の挿入歌であること、歌を日吉ミミが歌うこと、そして、これが最も大きい理由だが、作曲が中島みゆきであることと、魅力ある条件がたくさんあったのである。


阿久悠は3年前に久世から頼まれて、沢田研二主演のテレビドラマ『悪魔のようなあいつ』(TBS系)の挿入歌として、「時の過ぎゆくままに」を作って大ヒットを記録した。



久世は劇中歌や挿入歌の演出に毎度工夫を凝らすことで有名で、そこから数多くのユニークなヒット曲を誕生させている。
初期の阿久悠の代表作となった堺正章の「街の灯り」、郷ひろみと樹木希林とのデュエット曲「おばけのロック」や「林檎殺人事件」も久世の企画から生まれた。

『ムー一族』に抜擢された歌手は日吉ミミ、鼻にかかった高い声をバイブレーションを加えず、頭のてっぺんから出すような歌い方が特徴だった。
もともとは「池和子」という名前で1967年にデビューしたが、まったく売れなかったので1969年11月に改名して再デビューして成功した。

どこか投げやりな調子で歌う個性的な唱法がで2作目の「男と女のお話」がヒット、人気歌手の仲間入りをはたしてからは寺山修司が作詞した「ひとの一生かくれんぼ」、「たかが人生じゃないの」などで独特の存在感を放つ存在になった。

しかし「世迷い言」は飲み屋のシーンで毎回、日吉ミミとフォークグループの若者によって明るい調子で歌われたが、意外なことに大したヒットにはならなかった。

窓打つ木枯し みぞれがまじる
デジタル時計がカタリと変る
もしや あんたが帰って来たのかと
ベッドをおりたら出るくしゃみ
変なくせだよ 男にふられたその後は
なぜだかきまって風邪をひく
真夜中 世の中 世迷い言
上から読んでも下から読んでも
ヨノナカバカヨ




阿久悠は「なぜか売れなかったが愛しい歌」という著書でそのことについて、「売れたか売れなかったか、その辺は微妙なところであるが」と述べている。
それよりも何気ない情景描写のなかに時代を刻み込むことができたことで、作詞家としては十分に満足感を得ていたようだ。

時計はアナログからデジタルに変った頃である。そして、今のデジタル表示は音もなく変わるが、この頃は、スコアボードのように、六十秒に一回パラリと文字が変わる方式であったのである。
とにかく、元気元気、面白がる心、楽しませたい思い、日吉ミミとフォークグループ、阿久悠と中島みゆき、異種交配にも意欲的で、それは、売れる、もうかる以上の興奮だったのである。


さて、日吉ミミの「世迷い言」から1年後、中島みゆきがセルフ・カヴァーした「世迷い言」が世に出ている。
そこでは「デジタル時計がカタリと変る」という、阿久悠がこだわったであろうフレーズが異なっていた。

中島みゆきはこう歌ったのである。

窓打つ木枯し みぞれがまじる
カタリとデジタル時計が変る


微妙な違いだが、印象はかなり変わってくる。
日吉ミミの「世迷い言」がテレビドラマなら、中島みゆきの「世迷い言」は映画のようだった。

阿久悠は3分から5分ほどの歌謡曲のなかに、小説にも映画にも通じるドラマ性を持ち込んだ作詞家だ。
そして中島みゆきは小説にも映画にも通じるドラマ性をさらに深化させて、唯一無二のシンガー・ソングライターとして成長を続けていく。




(注)久世光彦氏の発言は、加藤義彦著『「時間ですよ」を作った男 久世光彦のドラマ世界』(双葉社)からの引用です。また阿久悠氏の文章は、阿久 悠著『なぜか売れなかったぼくの愛しい歌』 (河出文庫) |からの引用です。

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