「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SONG

忌野清志郎「自分の感じたことを、そのまま形にしたいから、一つの詩を、ああでもない、こうでもないと、何日も考えてる」

2018.05.02

Pocket
LINEで送る

(写真・井出情児)

日本人に”ダーリン”という言葉がなじむきっかけは、戦後まだ間もない頃に公開された西部劇『荒野の決闘(Oh my darling Clementine)』(監督ジョン・フォード)だった。
保安官ワイアット・アープをヘンリー・フォンダが演じた古典的な名作は、何度もリバイバル公開されたばかりでなく、全国各地の名画座では定番として上映されていた。
その主題歌に「いとしのクレメンタイン」使われたことで、長い時間をかけて”ダーリン”とは”愛しい人”のことだと浸透していったのだ。

♫ オー・マイ・ダーリン オー・マイ・ダーリン 
オー・マイ・ダーリン クレメンタイン


つぎに”ダーリン”という言葉が若者たちに知られたのは、ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー(Stand by Me)」が1962年に日本でもヒットしたことによる。

♫ ダーリン ダーリン ステーン バーイミー 
オー ステーン バーイミー


それからしばらくして子供にまで”ダーリン”が広まったのは、シチュエーション・コメディの傑作シリーズ『奥さまは魔女』が、1960年代後半に茶の間で人気番組になったことによる。
1966年から放送された日本語吹き替え版では、冒頭に毎回こんなナレーションが流れていた。

奥さまの名前はサマンサ 旦那様の名前はダーリン
ごく普通のふたりは ごく普通に恋をし ごく普通の結婚をしました
でもただひとつ違っていたのは 奥様は魔女だったのです!



1970年代に入って「ダーリン・ミシン」という不思議なタイトルの歌を書いたのは、RCサクセションの忌野清志郎だった。
この曲をライブで歌い始めたのは、RCサクセションにとって暗黒時代といわれる時期のことだ。

「君」と「僕」が部屋で過ごしているシチュエーションの詩は、贈り物にもらったワインが出てくることからも、クリスマスの頃を思わせる。
一見すると平和そのものに思える温かな情景で、「君はミシンを踏んでいる」と歌われるロックンロール・ナンバー。

別れたりはしない
ウソをついたりしない
上等の果実酒と
あったかいストーブの
この部屋の中
君はミシンを踏んでいる

嘘つきだなんて
そんなコトバしか
見当たらない君さ
だけどとても素敵なミシンを持っている
君はミシンを踏んでいる

今夜は徹夜で部屋中が揺れている
僕のお正月の赤いコールテンのズボンができあがる

君の涙や 苦しんだことが
卒業してしまった学校のような気がする夜さ
君はミシンを踏んでいる


その頃に渋谷のライブハウス「屋根裏」で演奏したと思われる音源が、いまはYOUTUBEで聴くことができる。


忌野清志郎はこの歌を作った頃に仲井戸麗市に書いた手紙のなかで、音楽と歌で自分を表現することへの思いを綴っていた。

もっともっと強くなりたいよ。ぼくは、どんどん正直になって、何でもかんでも見せてやるんだ。それが夢さ。だから歌ってる。ぼくの感じたり見たりしたことを、表現したいという欲求からぼくは、やってる。歌うのより、絵をかく方が、好きだったらなら、ぼくを絵をかいていただろうよ。ときどき、歌っていて、絵を書いているような気持ちになるんだ。


正直で、まっすぐな言葉だ。
そして切実。
それが忌野清志郎の本質だ。

正直にやるには、時々、とても勇気がいるよね。自分の感じたことを、そのまま形にしたいから、一つの詩を、ああでもない、こうでもないと、何日も考えてる。


「ダーリン・ミシン」が初めてレコーディングされたのは1980年で、友人だった仲井戸麗市が正式にRCサクセションのメンバーに加入し、最初のスタジオ録音によるアルバム『PLEASE』の1曲目になった。

そこでは”自分の感じたことを、そのまま形にしたい”がためにだろうか、もとの歌詞にあった「君」が「オマエ」になり、「ダーリン」はミシンを踏んでいる「オマエ」への呼びかけにもなっていた。

別れたりはしない
ウソをついたりしない
上等の果実酒
あったかいストーブ
この部屋の中
ダーリン、ミシンを踏んでいる

嘘つきだなんて
そんなコトバしか
見当たらないオマエ
とても素敵なミシンを持ってる
ダーリン、ミシンを踏んでいる

今夜は徹夜で部屋中が揺れている
僕のお正月の赤いコールテンのズボンができあがる

オマエの涙 苦しんだことが
卒業してしまった学校のような気がする夜
ダーリン、ミシンを踏んでいる







(注) 本コラムは2017年12月22日に公開された『「ダーリン・ミシン」の詩に書かれた言葉から〈絵のように〉伝わってくる忌野清志郎のロックンロール』を改題、改訂したものです。なお忌野清志郎の手紙は「ロックンロール研究所・編 生卵―忌野清志郎画報(河出書房新社)」からの引用です。

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SONG]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ