TAP the SONG

詩に書かれた言葉から〈絵のように〉伝わってくる忌野清志郎のロックンロール

2017.12.22

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(写真・井出情児)

”ダーリン”という言葉が日本人になじむきっかけになったのは、戦後まだ間もない頃に公開された映画『荒野の決闘』(監督ジョン・フォード 主演・ヘンリー・フォンダ)で、「いとしのクレメンタイン(Oh my darling Clementine)」が主題歌に使われたことだった。
ヘンリー・フォンダが保安官ワイアット・アープを演じた西部劇の古典的名作は、リバイバル公開された後になってからも1960年代までは常に、各地の名画座で上映されていた。


つぎに”ダーリン”という言葉が若者たちに知られたのはベン・E・キングのヒット曲、「スタンド・バイ・ミー(Stand by Me)」が1962年になって日本でもヒットしたからだ。

♫ ダーリン ダーリン ステーン バーイミー 
オー ステーン バーイミー 
オー ステーン ステンバーイミー




その後に”ダーリン”が一気に子供にまで広まったのは、一つの部屋のなかだけで物語が展開するシチュエーション・コメディの傑作シリーズ『奥さまは魔女』が、1960年代後半に日本でもお茶の間の人気番組になったことによる。
1966年からが放送された吹き替え版では冒頭に毎回、こんなナレーションが流れていた。

奥さまの名前はサマンサ 旦那様の名前はダーリン
ごく普通のふたりは ごく普通に恋をし ごく普通の結婚をしました
でもただひとつ違っていたのは 奥様は魔女だったのです!


1970年代になってから「ダーリン・ミシン」という、どこか不思議なタイトルの歌を書いたのは忌野清志郎である。

その歌は年の瀬に「君」と「僕」が部屋で過ごしているというシチュエーションで、贈り物にもらったワインが出てくるからクリスマスの頃なのだろう。

別れたりはしない
ウソをついたりしない
上等の果実酒と
あったかいストーブの
この部屋の中
君はミシンを踏んでいる

嘘つきだなんて
そんなコトバしか
見当たらない君さ
だけどとても素敵なミシンを持っている
君はミシンを踏んでいる

今夜は徹夜で部屋中が揺れている
僕のお正月の赤いコールテンのズボンができあがる

君の涙 苦しんだことが
卒業してしまった学校のような気がする夜さ
君はミシンを踏んでいる


この曲をライブで歌い始めたのはRCサクセションにとって、後に暗黒時代といわれる時期のことだった。
その頃に「屋根裏」で演奏したと思われる音源が、いまはYOUTUBEで聴くことができる。


「君」が「僕」のためにミシンを踏んでいるという、一見すると平和そのものに思える温かな情景の詩に見える。
だが、シンプルなロックンロール・ナンバーになったものを音で聴くと、あぶな絵のようなシーンが浮かび上がるしかけにもなっている。

この歌を作った頃ではないかと思われるのだが、当時はまだ友人だった仲井戸麗市に書いた手紙のなかで、忌野清志郎は「もっともっと、自分を見せてやるんだ」と、音楽と歌で表現することへの切実な思いを綴っていた。

それには、とても勇気がいる。もっともっと強くなりたいよ。ぼくは、どんどん正直になって、何でもかんでも見せてやるんだ。それが夢さ。だから歌ってる。ぼくの感じたり見たりしたことを、表現したいという欲求からぼくは、やってる。歌うのより、絵をかく方が、好きだったらなら、ぼくを絵をかいていただろうよ。ときどき、歌っていて、絵を書いているような気持ちになるんだ。音でかいている。そして何か〈絵のように〉見えた気がする。
正直にやるには、時々、とても勇気がいるよね。自分の感じたことを、そのまま形にしたいから、一つの詩を、ああでもない、こうでもないと、何日も考えてる。


「ダーリン・ミシン」がレコーディングされて世に出たのは1980年、仲井戸麗市がメンバーに加入してから最初のスタジオ録音によるアルバム『PLEASE』で、A面の1曲目だった。



別れたりはしない
ウソをついたりしない
上等の果実酒
あったかいストーブ
この部屋の中
ダーリン、ミシンを踏んでいる

嘘つきだなんて
そんなコトバしか
見当たらないオマエ
とても素敵なミシンを持ってる
ダーリン、ミシンを踏んでいる

今夜は徹夜で部屋中が揺れている
僕のお正月の赤いコールテンのズボンができあがる

オマエの涙 苦しんだことが
卒業してしまった学校のような気がする夜
ダーリン、ミシンを踏んでいる


そこで歌詞の「君」が「オマエ」や「ダーリン」に変更されていたのは、”自分の感じたことを、そのまま形にしたい”ために、さらに推敲したからに違いない。



(注)忌野清志郎の手紙は「ロックンロール研究所・編 生卵―忌野清志郎画報(河出書房新社)」からの引用です。

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