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浅川マキに発見されて歌い継がれてきた日本語のブルーズ、南正人「あたしのブギウギ」

2024.01.06

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1975年の日本の音楽シーンでは、ユーミンこと松任谷(荒井)由実がシングルの「ルージュの伝言」を2月20日に発表した。
それを契機にマスコミで次第に「ニューミュージック」という言葉が使われるようになり、それにともなって新しい潮流が生まれていく。

その結果、60年代後半からの「アングラ・フォーク」や「日本語のフォーク・ソング」、「日本のロック」、「シティ・ミュージック」などが、ニューミュージックの名のもとに統合されて、芸能界の色が濃いそれまでの歌謡曲に飽き足らなくなった若者たちの支持を広く集めていった。

フォーク・デュオのバンバンが歌った「『いちご白書』をもう一度」は、学園紛争を描いたアメリカ映画『いちご白書』をテーマにして激動の時代を回想した作品だが、ユーミンの作詞作曲で大ヒットした。
1960年代の反戦運動ともつながっていた「若者の反乱」は、1975年4月30日にベトナム戦争が終結したことで急速に過去のものになり始める。

同じ頃、シンガー・ソングライターの中島みゆきが「アザミ嬢のララバイ」でデビューしている。
そして11月にはヤマハが主催する「世界歌謡祭」に出場し、「時代」を歌ってグランプリに輝いて注目を集めた。

そんな年に渋くて、ゆるくて、ユーモラスな「あたしのブギウギ」というブルーズ形式の歌が、自主制作盤として東京都内の有線放送所に持ち込まれた。


歌ったのは南正人。
1960年代後半から遠藤賢司や高田渡とフォーク集団「アゴラ」に参加し、世界を旅するなかでつかんだ時代の感覚やフィーリングを表現したことで、一部では高い評価を得ていたシンガー・ソングライターである。

偶然にもにコーラスで参加したフォーク・デュオの一人だった、ちゃんちゃこの北方義朗が最近のブログでレコーディングにまつわるエピソードを述べている。
ちなみに北方は南正人のファースト・アルバム『回帰線』をよく聴いていて、ヴォーカルと詞曲はともに好きだったという。

ある時、ちゃんちゃこのアルバムのレコーディングの歌入れで、フォノグラム本社のスタジオにおりましたら、僕らのレコーディングの後で南正人さんの歌入れのレコーディングがあるので、残ってくれないかとの話が南さんの関係者からありました。それで、南さんに会えると思い二つ返事でハイと答えました。南さんの新曲の歌入れが始まりました、一回聴いただけで大好きになりました。「あたしのブギウギ」です。南さんの歌入れが終了してから、コーラスの歌入れをやるので君も入ってくれとのことです。?????僕も参加させてもらえるのですか?このオリジナル盤の「あたしのブギウギ」には、間奏やサビの部分で、なんともユーモラスにムード歌謡のクールファイブみたいな男性コーラスが入っています。そのコーラス隊に僕も参加させてもらったのです。


フォノグラムからシングル発売されたレコードのイラストは、当時の人気漫画家だった永島慎二だった。
永島は代表作の「漫画家残酷物語」では、はっぴいえんどの「春よ来い」に影響を与えていた。
〈吐きすて〉の歌の系譜=① 松本隆と大滝詠一の才能が出会った瞬間に生まれた「春よ来い」

「あたしのブギウギ」はザ・ディランⅡおよび作者の西岡恭蔵が歌った「プカプカ〕のように、口コミで広まっていく作品になるかと期待されたが、明るく軽やかな方向へと向かい始めた音楽シーンの流れと逆行するタイプの歌だったせいか、そのまま埋もれてしまいそうになった。

それがもういちど日の目を見ることになったのは、浅川マキがステージで取り上げて歌ってみたところ観客からの反応がよく、1977年に発表した通算5枚目のアルバム『流れを渡る』でカヴァーしたからだ。


浅川マキに発見された「あたしのブギウギ」はその後、ライブ・アルバムにも収録されて後世へと歌い継がれることになる。

それにしてもこの歌の主人公はそのまま、浅川マキのようだと感じさせるところがある。
作詞した成田ヒロシは南正人の代表作「ヨコスカブルース」も手がけているが、当時から浅川マキとも近いところにいたようなので、なんとなくイメージを重ねていたのかもしれない。

なお最近では2010年5月に結成された伊東妙子(ボーカル・ギター)と篠田智仁(ベース)によるブルースデュオ、T字路s(てぃーじろす)も「あたしのブギウギ」をレパートリーにしている。

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