「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SONG

ミシェル・ポルナレフの「愛の休日」で衝撃を受けたユーミンが身につけた視点と浮遊感

2018.11.09

Pocket
LINEで送る

日本でミシェル・ポルナレフが有名になったのは1971年に発売した「シェリーに口づけ」が、歌謡曲に混じってオリコンのベストテンに入るほどヒットしたからだ。

さらに1972年に発売された「愛の休日」がそれを上回る大ヒットを記録し、アマチュア時代のユーミン(荒井由実)にまで大きな影響を与えたという。

「愛の休日」がユーミンの感性を刺激して共振したことにより、「ひこうき雲」や「恋のスーパーパラシューター」といった、それまでの日本になかった歌詞が誕生してきたともいわれている。

松任谷由実(ユーミン)は日本文化研究の第一人者である松岡正剛との対談において、多くの人々が指摘している詩の世界における独特の浮遊感をテーマに、こんな言葉を交わしていた。

松任谷 G(重力)感覚ということで言えば、笠井潔さんが「中央フリーウェイ」について書いてくださいましたが、荒井由実時代の曲には特に浮遊感があるらしいです。私自身は、何の哲学も持たずにつくっているのですけれど。
松岡 いや、あるでしょう。無意識なのかもしれないけれど、言葉が出る瞬間や曲に乗るところ、上がっていく声には確実に浮遊感がありますよ。それはユーミン哲学だと思いますけどね。そういったものは何かが原体験になっているのですか。
松任谷 原体験などという大層なものではないのですが、ミッシェル・ポルナレフに「ホリデイ」という曲がありますよね。あれは空から教会や畑を見ているという内容の歌なんですが、あの曲に衝撃を受けて、俯瞰を手に入れたというところはあります。そういうアングルの歌は日本語の曲にはなかったから。


Holidays…
空から降りていく飛行機
翼の影が町を通り過ぎる
なんて地上は低いのだろう
教会やモダンな建物
皆が愛する神は
この空に居るのだろうか
なんて大地は低いのだろう
Holidays・・・


「ホリディ」の歌詞は人間の営みを俯瞰して見ているという点において、神のような特別の視点で描かれていると言えなくもない。
それに対応するポルナレフのメロディも浮遊感があって、最初から最後までファルセットで歌われるヴォーカルでによって、いっそう幻想的な印象を強めている。

ドラマティックでいて静かな余韻を残す美しい曲・・・、これぞポルナレフの担当ディレクターだったCBSソニーの高久光雄が付けた名キャッチコピー、「ロックとロマンの出会い」そのものだった。
高久はCBS・ソニーに入社する際に当時の大賀社長との面接で、「ミッシェル・ポルナレフ」をやらせてほしいという条件を出したという洋楽マンだ。

僕は学生時代からポルナレフが好きだったんです。ソルボンヌ大学に1年留学していたいとこが買ってきたEP盤の中にポルナレフがあって、聞いたら鳥肌が立ったんですね。「これはすごい! どこにもない音楽だ」と。だからやりたかった。


ところで「ホリディ」の作詞者として記されているのは、ジャン・ルー・ダバディというフランスの作家である。
映画の脚本家としては『パリジェンヌ』(1961)、『私のように美しい娘』(1972年)、『夕なぎ』(1972)、『友情』(1974)、『ありふれた愛のストーリー』(1978)、『ギャルソン』(1983)などを手がけている。

また作詞家としてもポルナレフの作品のほかに、ジュリアン・クレールやミッシェル・サルドゥー、ジュリエット・グレコなどに作品を提供し、2006年にはフランス著作権協会(SACEM)からシャンソン作家大賞を授与された。

なおダバティの代表作といえばフランスを代表する名優、ジャン・ギャバンが70歳の時に吹き込んだ「Maintenant je sais」が挙げられる。
人生の終わりを迎えた男の感慨をとつとつとした語りを中心に綴った作品で、フランスでは1974年に大ヒットしている。






(注)松任谷由実氏と松岡正剛氏の会話は、松任谷由実:著「ユーミンとフランスの秘密の関係」(CCCメディアハウス)からの引用です。また高久光雄氏の発言は、篠崎 弘 (著, 監修)「洋楽マン列伝 1」(ミュージック・マガジン) からの引用です。


Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SONG]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ