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レイ・チャールズの記憶がジャズ・スタンダードと出会って生まれたソウルの傑作「我が心のジョージア」

2019.03.08

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ジョージア州オルバニーで生まれたレイ・チャールズは、数カ月後にはジョージア州との州境に近いフロリダ州北部に移り住んで、極貧に近い暮らしのなかで育った。

そして7歳の頃から少しずつ視力を失ったのだが、レイは幼少期を過ごしたフロリダ州北部の田舎をしっかり記憶していた。
レイの言葉によれば、そこは「田舎のなかの田舎、本当の僻地だった」という。

しかしそんな田舎で生活がどん底だったにもかかわらず、レイは3歳の頃に音楽とピアノに出会うという幸運に恵まれる。

黒人居住区にあったレッド・ウィング・カフェは、黒人コミュニティの中心的な役割を果たしていた雑貨屋さんだ。
ビットさんと奥さんのジョージアが経営していて、部屋の賃貸しもしていたので、しばらくそこに住まわせてもらったことがあった。
そこにはレイの生涯を決めた大切なものが置いてあった。
ピアノとジュークボックスである。

カフェを営むワイリー・ビットマン(幼いレイはビットさんと呼んだ)はブギウギ・ピアノの達人で、レイが望むだけピアノに触れさせて自由に叩かせてくれた。
もちろん小さなレイは、自力でピアノを引くことはできない。
ビットさんはレイを自分の膝の上に座らせて、「そうだ、坊主!いいぞ!」とつきっきりで、ブギウギの手ほどきしてくれたのである。

そのことについて自伝の中で、レイはこのように述べている。

今、振り返るときっと彼は私の中に何かを見出していたのだろう。私の中にある何かの才能を感じていたのだ。だからこそ、彼は私の教師役を買ってでたのだ。


レイはまだ子供だったが、その時から自分のフレーズを生み出そうとしていた。



カフェに置かれた音楽の宝箱、ジュークボックスにはブギウギのレコードがいっぱい入っていた。
ほかにも卑猥な歌詞のブルースや、カントリー・ブルースなどがあった。
レイはそれを物心がついた3歳の頃から、スピーカーの真ん前の定位置に座って何時間も聴いて過ごした。

音楽的な環境の面でいうならば、ラジオから朝から晩まで流れていたのが、白人向けのヒルビリーだったことも影響しているだろう。

10代になってからのレイは失明したことで、生きるために役立てなければならなくなったピアノを弾いて、白人向けのクラブでスタンダード曲を演奏していた。
時を越えて歌い継がれてきた美しい曲の数々を、そうした実践の場でレイは自分のレパートリーにしていった。

そのようにしてゴスペルやブルース、ジャズ、カントリー、R&B、ロックンロールを自分自身の音楽として完全に消化したうえで、レイはそこからソウルの原型を創り上げていったのだ。

そして30歳になった時、ソウルを代表する歌となる「Georgia On My Mind(我が心のジョージア)」を吹き込んでいる。
この曲はレイが生まれた年に誕生したスタンダード・ソングだったが、名曲「スターダスト」の作者で俳優でもあったホーギー・カーマイケルが作曲したものだ。


やがてグレン・ミラー、ルイ・アームストロング、ビリー・ホリデー、エラ・フィッツジェラルドらがカバーして、ジャズのスタンダードとして広まっていた。

レイはこれを美しいストリングスのアレンジに乗せて、情感を込めてブルージーに歌うことに成功する。
アルバムのためにレコーディングされた「我が心のジョージア」は、あまりの出来栄えの良さからレコード会社がレイに相談して、予定外だったシングル・リリースが決まった。

そして1960年11月にはビルボードのHOT100で初めての1位を獲得し、同年度のグラミーでも「最優秀男性歌唱賞」を受賞している。
それからは誰もがこの歌はレイ・チャールズの曲だと思うほど、広く深く浸透したのである。


なお故郷を思う気持ちと、愛する人を思う気持ちとが重なり合う「我が心のジョージア」について、レイはこんな事実を明らかにしている。

私はビットさんの奥さん以外でジョージアという名前の女性は知らない。またレコーディングの時にジョージア州を思い浮かべていたわけでもない。



ジョージア、ジョージア いつも思う
懐かしく甘い歌 ジョージアを心に抱き続ける
ジョージア あなたの歌

やさしく清らかな 松の葉から漏れる月光のようにそれは訪れる
私を求める腕 私に微笑む瞳はあるが
安らかな夢に見るのは あなたのもとに戻る道

ジョージアよ、私はあなただけを慕う 他に幸せは見いだせない
この懐かしく甘い歌が 我が心のジョージアを思い出させる



<参考文献>『我が心のジョージア〜レイ・チャールズ物語〜』レイ・チャールズ&デイヴィッド・リッツ:共著 吉岡正晴:訳・監修(戎光祥出版)


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