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内田裕也がカヴァーしたレイ・チャールズの「ワット・アイ・セイ」~クレイジーで穏やかなロックンローラーの歌声

2019.03.22

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My name is Yuya Uchida.
私は5月のハドソン川をスーツを着て泳ぎ、12月のパリ中とループル美術館の中を走り、脚本・主演した映画はニューヨーク近代美術館で上映され、ハワイノースショアの上空4000メートルからスカイダイビングをして地上に降り立ったクレイジーで穏やかなロックンローラーです!ヨロシク!


これは先ごろ亡くなった内田裕也氏のツイッターに書いてあった自己紹介だ。(2019年3月22日現在)
ところで、ここに書かれている5月のハドソン川をスーツを着て泳いだのは、1985年のことだ。


PARCOがつくったこのCMは、オンエアされた直後から評判になった。
原案は内田裕也、クリエイターは井上嗣也、カメラマンが加納典明。
仲畑貴志のコピーは、「昨日は、何時間生きていましたか。」というものだった。

撮影した加納が、後にこう振り返っている。

ニューヨークのハドソン川を裕也さんにスーツ姿のままで泳いでもらったんです。
あの撮影は、当時みんな「クレイジー」だって言っていましたが、才能あふれるコピーライターやアートディレクターなんか第一線を牽引していた優秀なスタッフで、最高のものをつくりました。
非常に大掛かりな撮影で、とにかく思い出のある撮影でした。



1963年3月に「ひとりぼっちのジョニー」で東芝レコードからデビューした内田裕也は、2年で数枚のシングル盤を出したが、いずれもヒットには結びつかなかった。
時代はまだGSのブームが起こる前夜、ようやくエレキ・ブームの兆しが見えていた頃である。

内田裕也は都内のジャズ喫茶を中心に活躍していたが、寺内タケシが率いるブルージーンズのヴォーカリストとして頭角を表していく。
1963年の夏にエレキギターを主体にしたバンドになったブルージーンズは、寺内タケシと加瀬邦彦の二人がスター的な存在だった。
そこにヴォーカルとして加わっていたのが内田裕也であり、ほりまさひろ、桜井五郎、藤本宏などの面々だった。



尾藤イサオもまたジャッキー吉川とブルーコメッツのヴォーカルで、バンドの一員のように行動を共にしていた。
彼らの真骨頂はジャズ喫茶におけるライブで、昼と夜を合わせると10ステージも繰り返されたのだが、若さとエネルギーで乗り切っていた。

内田裕也と尾藤イサオは司会ぶりの面白さも共通していて、それはジャズ喫茶のせまい空間だったからこそ効果があった。
そんなふたりが1965年に吹き込んアルバム『ロック・サーフィン・ホット・ロッド』は、ブルージーンズとブルーコメッツの演奏で当時のジャズ喫茶の気分が堪能できる。



そして1曲目に入っていたのがレイ・チャールズの代表作、1959年に放ったヒット曲「ワット・アイ・セイ」だった。

レイは1950年代の前半からR&Bチャートで多くのヒット曲を放っていたが、1959年に全米ポップチャートで最高6位(R&Bチャートでは1位)に送り込んだこの曲は重要だ。
黒人音楽の世界で確固たる地位を築いてきたレイを、白人の聴衆が主流のポップ・ミュージックに向かわせたのだ。

ラテン音楽のルンバやR&Bの要素が混じり合っている前半、リスナーはまずインストゥルメンタルで気分が高揚していく。
さらにレイのヴォーカルが入ってくると、途中からゴスペルの影響によるコール・アンド・レスポンスが繰り返されるので、リスナーも一緒になって声を出して盛り上がるという構造だった。

しかし曲の中盤にセックスをほのめかすパートが出てくることで、熱狂的に受け入れられた反面、場所によっては放送禁止になるなど白人と黒人の両方から反発があった。

それでもこの曲がヒットしたことで、レイ・チャールズは初のゴールド・ディスクを獲得する。
そして「ワット・アイ・セイ」R&Bやロックンロールの定番として、スタンダードになって今もなお歌い継がれている。


内田裕也と尾藤イサオの「ワット・アイ・セイ」は、勢いのあるエレキバンドらしいアレンジでセンスもいい。
ただしエネルギッシュではあっても声がきれいなせいなのか、内田裕也のヴォーカルからはどことなく品が良さが伝わってくる。
復刻されたCDを聴き直してみて、そんなところが意外な特徴になっているということに初めて気づかせられた。



(注)加納典明氏の発言は「写真は時代の証明 時代の顔を撮り続けたい ── 写真家・加納典明が語る」(THE PAGE)からの引用です。


内田裕也、尾藤イサオ 『ロック・サーフィン・ホット・ロッド+レッツ・ゴー・モンキー』
ユニバーサル ミュージック




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