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マイケル・ジャクソンからジョニー・キャッシュまで、クロアチアの少年の心を捉えた歌

2015.01.24

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2011年の1月、動画サイトに投稿された1本の動画から、ネット時代における音楽の新しい物語が始まった。

イギリスの大学でクラシックを学んだ二人の若いチェリスト、ルカ・スーリッチとステファン・ハウザーが、マイケル・ジャクソンのヒット曲「スムーズ・クリミナル」をカバーした動画は、意外性やテクニックなどが評判を呼び、半年で500万回もの再生回数を記録した。

それがメジャーなレコード会社の目にとまったのは、投稿からまだ間もない時期のことだ。

ともにクロアチアに生まれ育った二人はこれによって注目を集めて、投稿からわずか半年後、2CELLOSの名前でメジャーデビューを果たす。

2cellos album

デビュー・アルバムには彼らが聞き親しんできたロックの名曲、12曲が収録されていた。
そこにはU2やスティングといったクラシック・ロックから、ニルヴァーナ、ミューズ、コールドプレイといった最近のアーティストまで、幅広くレパートリーに取り上げられた。

それらの中で異彩を放っていたのが、トレント・レズナー/ジョニー・キャッシュの作と記されていた「HURT(ハート)」だった。


オリジナルはこんな歌詞から始まる、へヴィーな内容の歌である。

俺は今日、自らを傷つけた
まだ感触が残っているのか、
確かめるために
俺は痛みに神経を集中させた
それだけが今のリアルだった


そもそもはトレント・レズナーが率いるナイン・インチ・ネイルズの楽曲として世に出たが、それを2002年にジョニー・キャッシュがカバーした。

長年にわたってドラッグ中毒で苦しみ続けた過去を持つキャッシュは、「ハート」をカバーした動機について、「アンチ・ドラッグという観点からみて、この曲以上のものはない」と答えている。

72歳となったキャッシュのヴォーカルは、人生の苛烈さと深遠さ、両極を感じさせるエモーショナルな力に満ちていた。


ミュージック・ビデオの「ハート」は、キャッシュの人生を映像化した4分弱の映画ともいえる内容で、実に密度の濃い作品である。

2005年にはミュージシャンと音楽関係者によって選考された『歴代最優秀ビデオ・トップ20』で、マイケル・ジャクソンの「スリラー」を抑えて堂々の1位に選ばれた。

ファットボーイ・スリムやビョーク、フランツ・フェルディナンドなどとともに、選考者の一人だったR.E.M.のマイケル・スタイプはこう賞賛した。

感動的。
監督のマーク・ロマネクの大胆さと勇気を賞賛する。
衝撃的なビデオだ。
そして美しい。


アメリカン・ミュージックに脈々と流れるテーマ、苦しみの中での切実な訴えという原点が「ハート」には見事に結晶化されている。
それは映像によって、さらに訴える力を倍加させた。

ところで、これほど渋い曲をカヴァーして取り上げたところには、2CELLOSの並ではないセンスが光っていたようだ。
クレジットをWネームで記したのは、キャッシュへの敬意の現れだったのだろうか。

2CELLOSは現代のロックやポップスをカバーして順調にキャリアを重ね、2015年の1月には3枚目のアルバム『チェロアヴァース』を出すまでに成長してきた。

『チェロアヴァース』の1曲目「トゥルーパー」は、クラシックの「ウィリアム・テル序曲」(ロッシーニ)と、ヘヴィメタルバンドのアイアン・メイデンのマッシュアップ作品だ。

またエレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)のトップDJ兼プロデューサー、アヴィーチーの代表曲「Wake Me Up」を優雅にカヴァーするなど、彼らがめざしていたクラシックやロックの垣根を飛び越える挑戦がいよいよ始まったとも言える。


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