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レスター・ヤング 27歳〜ビリー・ホリデイとの出会い、死が二人を分かつまで続いたプラトニックな関係

2024.03.15

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1937年、レスター・ヤングは27歳の時にビリー・ホリデイ(21歳)と出会う。

彼が当時在籍していた“カウント・ベイシー・オーケストラ”に、彼女もたびたび参加するようになっていたのだ。
彼は親しみを込めて、彼女に“レディー・デイ”という愛称をつけた。

ビリーは10歳の時に強姦され、相手が白人だったために(彼女が被害者なのに)逆に売春容疑で逮捕されるという理不尽な経験を強いられ…以来、自暴自棄になり売春や麻薬にも手を染めていた。

彼もまた、十代の頃に父親から受けた家庭内暴力ともいえる音楽指導によって、心に深い傷を負っていた。

お互いに辛い過去を持つ者同士として意気投合し、二人は仕事仲間から飲み仲間となり…後には麻薬仲間にもなってゆく。

特別な名前で呼び合うために、ビリーは彼に “プレス(Pres)”という愛称を思いつく。
※プレズ(Prez)と表記される場合もある

彼女は、この呼び名についてこんなことを語っている。

「私はいつも、レスターを最高だと思っていたから、称号も最高でなければならないと考えていたの。当時のアメリカでは、王(King)も、伯爵(Count)も侯爵(Duke)も、あまり魅力のある呼び名じゃなかったわ。最高の男は大統領のフランクリン・ルーズベルトだった。
そこで私は彼のことを“大統領(President)”と呼び出したの。それが縮まって“プレス(Pres)”になったのよ。」

<ビリー・ホリデイ自伝『奇妙な果実』晶文社より>

当時のジャズメンには“キング”・オリヴァー、“カウント”・ベイシー、 “デューク”・エリントンと、王も伯爵も侯爵も存在した。ビリー・ホリディはそれを皮肉って言ったのだ。


幼少時代から父親による異常とも言える演奏指導(暴力行為)を受けて育った彼は、19歳で家出をする。
彼はサックスを手にいくつかのバンドを渡り歩きながら力をつけ、1932年に“オリジナル・ブルー・デヴィルズ”というバンドに参加する。

オクラホマ・シティーを中心に活動していたこのバンドには、後にジャズ界を代表するアーティスト(バンドリーダー)となるカウント・ベイシーが所属してた。
翌1933年には、カウント・ベイシーが立ち上げたバンドに所属し、当時テナープレイヤーのスターとして君臨していたコールマン・ホーキンスのアグレッシブで荒々しい奏法とは正反対の、ソフトで優しい演奏スタイルで徐々に人気を博していった。

その後、カウント・ベイシーの下から一旦離れ、当時人気絶頂だったホーキンスの後任としてフレッチャー・ヘンダーソン楽団に入ったが、彼を待っていたのは“ホーキンスのようにプレイしなければいけない”というプレッシャーと、周囲からの厳しい批評だった。

まもなくそこを辞め、別のバンドで6ヶ月ほど演奏するが…再びベイシーと活動するために彼の楽団に戻ることを決める。
1936年、カウント・ベイシーが結成したビッグバンド“カウント・ベイシー・オーケストラ”のメンバーとなった彼は、ここでやっと初めての国際的な名声を得るようになる。

この年の夏の終りに、彼は27歳を迎えていた。
そして、その数ヶ月後にビリー・ホリデイと出会うこととなる。

心に傷を負いながらも、深い絆で結ばれていたレスター・ヤングとビリー・ホリデイ。
互いを「プレス」「レディ」と呼び合い、気持ちを通わせた彼らのプラトニックな関係は、死が二人を分かつまで続いたという。

1959年3月15日、ビリーはレスター・ヤング(享年49)の訃報を耳にする。
その頃にはビリーも身体が弱り切っていたのだが、他ならぬ友の旅立ちに“別れの歌”を贈ろうと思い立ち、無理を押し切って参列した。

埋葬のときにレスターの妻からビリーは歌うことを拒絶される。
深い悲しみに彼女は泣き崩れ…葬儀からの帰り道にこう呟いたという。

「あいつら、唄わせてくれなかった。この次はあたしの番だわ。」

その年の7月17日、まるで彼の後を追うようビリー・ホリデイ(享年44)もこの世を去った…。


ビリー・ホリデイ&レスター・ヤング『A Musical Romance』

ビリー・ホリデイ&レスター・ヤング『A Musical Romance』

(2002/Sony Music)


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