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ポール・スタンレー27歳〜人気絶頂を迎えていたKISSの内部崩壊、大規模ツアーがもたらした光と影

2018.12.15

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ポール・スタンレー。
70年代に一世を風靡したハードロックバンドKISSのフロントマン兼ギタリストとして知られる“ロックスター”だ。
1974年にデビューして以来、その長いキャリアのほとんどをKISSでの活動にあて、それ以外での主だった活動は非常に少ないが、時に興味を持ったバンドのプロデュースをすることもあった。
1979年、アメリカはボストン出身のNew Englandというバンドのデビューアルバム『New England(失われし魂)』のプロデュースを担当したのがちょうど27歳の時だった。


その前年の1978年春、人気絶頂を迎えていたKISSは2度目の日本ツアーを行うが…楽屋では物を投げ合い、つかみ合いの喧嘩をするなど、メンバーの関係は最悪な状態になっていた。
グループは絶対的な人気を誇りながら当分のライブ活動休止を宣言する。
既に1978年初頭には各メンバーがソロアルバムのレコーディングを行っており、来日時にも都内のスタジオを借りてレコーディングしていたという。
ポールは当時を振り返ってこう語る。

「あの時期にソロアルバムを発表して落ち着かなければKISSは確実に解散していたよ。」


1978年9月、各メンバーのソロアルバムが同時にリリースされる。
この頃には、単にレコード制作やコンサート活動だけに止まらず、映画『KISS MEETS THE PHANTOM OF THE PARK(地獄の復活)』の制作、MEGO社から彼らの人形が発売、遊園地『KISS WORLD』の建設構想など、次々にバンド活動以外の企画が打ち出され、4人は“キャラクター商品”の素材と化していった。


ポールが27歳を迎えた1979年、KISSは2年ぶりのオリジナルアルバム『Dynasty(地獄からの脱出)』を発売する。
本作はソロアルバムの延長のような作品で、スタジオでメンバー全員が顔を合わせることは無かったという。
リリースに合わせて行われたDYNASTY TOURの観客動員は伸び悩み…やがてキッスは低迷期を迎えることとなる。

「アルバム“Dynasty(地獄からの脱出)”のために行なったツアーは、もはやロックショーではなかった。子供向けのぬいぐるみショーのようなものだったよ。幅広いファン層を取り込んで行くために自分達が選んだ方向だったかもしれないが、あの“変化”は当時俺達が犯してしまった間違った選択の一つだった。」


彼らはラスヴェガスのショーかディズニーのパレードのような衣装を身にまとって、カラフルな照明や火花で演出されたステージ上で演奏することとなった。
観客の度肝を抜いた六角形のステージのデザインはポールが手掛けたという。
メンバーを高所まで持ち上げるためのエレベーター付きで、ステージ全体を包み込むレーザー光線の幕が仕掛けられていた。
(時代的にレザー演出の技術がまだ珍しい時で、ツアー中一度もまともに作動しなかったという)


「ツアーが大規模になっているのに、観客が減っていっていることが一番のショックだった。そしてドラムのピーターがドラッグに溺れてしまい、不安定なプレイをするようになってきたんだ。楽屋が暑いというから冷房を強くすれば、今度は寒過ぎると言って鏡を素手で殴り割ろうとして深刻な怪我を負ったこともあったんだ。」


彼はジーンとエースと話し合い、ピーターを辞めさせる決断を下す。

「これまでもメンバー間で喧嘩あったし、色々なトラブルもあった。だけど、どんなに嫌なことがあっても“争い事はすべて楽屋に置いていけ!”というのが俺達の暗黙のルールだったんだ。何が起こっても、ステージに上がった時には俺達はバンドなんだ。ステージは神聖な場所なんだ。だからピーターが意図的にも取れるような形でコントロール不能になっていくことが許せなかった。それは究極の裏切り行為だった。」


それは1979年12月中旬、ツアーが終わった直後の出来事だった。
KISSのドラマー、ピーター・クリスが『プレイボーイ』誌の元プレイメイトだったデブラ・ジェンセンと結婚を発表した。
その女性はポールが過去に結婚生活をしていた二番目の妻だった。

「おかしな状況だったよ…彼女はKISSから解雇された男と本当に結婚するのか?信じられない気持ちだった。」



<引用元・参考文献『ポール・スタンレー自伝 モンスター 仮面の告白』ポール・スタンレー(著)ティム・モア(著),増田勇一(監修)迫田はつみ(翻訳)/ シンコーミュージック>

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