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ダイアナ・ロス27歳〜スプリームスからの独立、映画への初挑戦、ビリー・ホリデイを演じきった自信と確信

2018.12.29

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「私は1970年にスプリームスをやめた。当時26歳だった私は、自分が何を欲しているのか?人生でどんなものが自分を幸福にしてくれるか?それに基づいて決断ができるくらいに成長していたの。グループからの独立は、他人が思うほど大変ではなかったわ。スプリームスを脱退する前から、私はたびたび一人で活動をしていたし、かなり多くの曲を録音したりもしていたわ。」


ファンの一部やマスコミ・評論家たちは、彼女がソロ歌手として成功するかどうか疑問に思っていた。
ソロ名義で初めて公演を行なった時に、彼女は観客に対してこんな言葉で歓迎する。

「今日のコンサートのタイトルは“ダイアナ・ロスが一人でも大丈夫が観てやろうショー”ね。」


次の瞬間、客席からは割れんばかりの拍手が沸き起こったという。
最初のソロツアーは、アメリカのエンターテイメントの都、ニューヨークとラスヴェガスで行なわれた。
あえて街の中心から外れた会場を選び、ブロードウェイの裏舞台風のショーが構成された。

「演劇的なライブを作りたかったの。ヴィジュアルはつねに私にとって重要な要素だったわ。照明や音響にはたくさんの仕掛け(きっかけ)を作ったし、衣装にも凝ったわ。何度も着替えて視覚的にも聴覚的にも観客を楽しませるショーを考えたの。」


1970年4月、ソロになって初めてのシングル「Reach Out and Touch(Somebody’s Hand)」をリリースしたが、はじめのうちは売り上げも評判も芳しくなかった。
しかし、彼女は一人で活動を続けていくことを固く心に決めていたという。
スケジュールはゆっくりと着実に進行していった。
ツアー、ステージ、レコーディングなど、彼女は一つひとつの仕事に熱を入れていた。
そんな中、彼女のもとに新しい仕事の話が舞い込んでくる。
ビリー・ホリデイの伝記映画『Lady Sings The Blues(ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実)』への出演オファーだった。
演技経験のない彼女にいきなり主演させて、映画女優デビューさせようというのだ。

「演劇学校に行ったことのない私にとって、それはとてもエキサイティングな挑戦だったし、それまでの活動とはまったく違う、真新しくてやりがいのある仕事だった。」


映画の制作発表後、配役に関して多くの批判の声があがったという。
彼女がビリー・ホリデイを演じるにあたって、容姿、歌い方、生き方、人生経験…なにもかもが違うという批判だった。
まだ撮影さえ始まっていないのに、マスコミは彼女に対して敵対したのだ。
彼女は、そんな状況を受け流すように努め、黙々と役作りに専念した。

「出演を決めた時、私のお腹には第一子(ロンダ)がいた。当時、私は母親になりたいと望んでいたので“子供が生まれたら映画の仕事なんてできない”と思っていたわ。映画の世界ではよくあることらしいけど…都合のいいことに制作準備が遅れ続けてくれたの。そこで私は9ヶ月の妊娠期間中に、ビリー・ホリデイや麻薬中毒に関する資料を読みあさったわ。入手可能な音源・書籍はすべて聴いたし読んだ。リサーチと役作りにはもってこいの月日だったわ。」


1971年、27歳を迎えた年に彼女は第一子を出産した。
クランクインが迫る中、劇中で使われる曲のレコーディングが行なわれた。
タイトル曲「Lady Sings The Blues」に、彼女は映画への情熱と歌手としてのプライドのすべてを込めて歌った。


「スプリームス時代の私は、グループのイメージにあった歌を唄うのことがすべてて、ジャズやブルース系の曲はほとんど歌ったことがなかった。だけど、まったくなじみがないわけではなく、ジャズはずっと好きだったし、子供の頃にはビリー・ホリデイはもちろんのこと、エラ・フィッツジェラルドやベッシー・スミスなんかも聴いて影響を受けていたわ。“ジャズ”という言葉は刺激的だわ。私はこの言葉に威厳を感じるの。それは私達が受け継いできた黒人の歴史に対していだく威厳と同じもので、祖先たちの魂の中にそなわっているものだと思うの。」


1972年10月に映画『Lady Sings The Blues(ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実)』が公開されると、批評家たちは手のひらを返したように彼女の演技を誉め称えた。
ジャズ評論家でビリー・ホリデイの友人でもあったレナード・フェザーは「レディ・デイのエッセンスを的確に表現している。」と称賛した。
作品は、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、彼女はゴールデングローブ賞新人賞を獲得した。
映画公開に併せてリリースされたサウンドトラックも、Billboard 200で2週連続第1位を獲得し、約200万枚を売り上げる大ヒットとなり、彼女のキャリアにおいてベストセラーと言える一枚となった。


「アカデミー賞にノミネートされたことは、とても光栄なことだったわ。初めて女優にチャレンジした作品が評価されだんだもの。主演女優賞は逃したけれど、そんなことどうでもよかった。これほど並外れた黒人女性、これほど優れた歌手の役を演じる機会を与えてもらっただけで、ぞくぞくするような興奮があったわ。振り返ってみると、あの映画の仕事は実りが多かった。厳しい挑戦に向かって突進し、よい結果を受けたことによって、自分を見つめるうえで“新しい視点”を手に入れることができたから。人生を前向きに進んでいくことへの自信と確信。それは27歳の私が手に入れたものだった。」


<引用元・参考文献『ダイアナロス自伝』ダイアナ・ロス(著)板倉克子(翻訳)/音楽之友社>

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