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ジミ・ヘンドリックスのFirst Step〜たった5ドルの中古エレキギター、陸軍時代に出会った相棒ビリー・コックス

2022.01.25

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ジミがエレキギターと出会ったのは12歳だった。
友達の影響でB.B.キングやエルモア・ジェイムスといったブルースを耳にするようになり、当時アメリカ中の若者を熱狂させていたエルヴィス・プレスリーに夢中になっていた時期だった。
ギターを持っていた友人の家に集まり、みんながカードゲームで盛り上がっている時間に、ジミはそっとギターを玄関ポーチに持ち出していじくっていたという。
当時のことをジミ本人が語った記録が残っている。



「どうやって弦を張り替えていいのかもわからなかったんだ。僕は左ききだったから、全然しっくりこなかったよ。弾き真似のようなことをしていても“何だか変だな”と思っていたんだ。ある晩、父親がアパートの大家の息子から古いギターを5ドルで買い取って僕にくれたんだ。」





弦の張り方も覚え、ギターの魅力に取り憑かれていった彼は、ありとあらゆるものから音楽を吸収していった。
レコード、ラジオ、テレビのアニメなどのBGMや効果音も熱心にコピーしていた。
15歳になったジミは、アマチュアバンドで経験を積み、ギターの腕を磨いていった。
しかし…その後、彼は自動車窃盗の罪で逮捕される。
その際、投獄されるのを回避するために陸軍に志願して入隊。
第101空挺部隊(スクリーミング・イーグル)へと配属されることとなる。



「16歳で学校を中退して暇を持てあましてたし、俺が生まれ育ったシアトルの町では面白いことなんてなんにもなかった。法的に入隊が許可される17歳になるのを待って陸軍に志願したんだ。そしたら驚くべきことに、軍人生活の方がずっとつまんなかった!」




ジミはそこで黒人ベーシストのビリー・コックス(一等兵)と出会う。
すぐに意気投合した二人は、軍隊内のクラブハウスで一緒に演奏することもあった。
当時はベトナム戦争が開戦したばかりの時期だったが、ジミもビリーもベトナムの戦地に行くことはなかった。
ビリー・コックスはジミとの初めての出会いを鮮明に憶えていた。



「1961年11月のある雨の日だったよ。土砂降りだったから俺は基地内にあるサービスクラブで雨宿りをしていたんだ。誰かがギターを弾いてる音が聴こえてきた。建物の奥には音楽室があって、俺は音に導かれるように入っていった。そこに赤いギターを持った痩せぎすの青年がいたんだ。彼が弾くギターの音色は、まるでベートーヴェンとジョン・リー・フッカーを合わせたような不思議な魅力を放っていたよ。」




ビリーはジミに自己紹介をして、自分がベースを弾いていることも伝えた。
ウエストバージニアで生まれたビリーは、音楽的な環境に恵まれて育ったという。
彼の母親はクラシックのピアニストで、叔父はデューク・エリントンの楽団のサックス奏者だった。
幼い頃から、ピアノ、サックス、トランペット、ヴァイオリンなど楽器に慣れ親しんできた彼が選んだ楽器はベースだった。
それはレイ・ブラウンとチャーリー・ミンガスから受けた影響からだという。
ピッツバーグの学校でウッドベースを弾きながら音楽の勉強を始めた彼は、運隊に入る前からいくつかのグループで演奏をしていた。
そんなビリーとジミは、すぐに仲良しになり、二人は強い友情で結ばれるようになる。
ビリーは「一緒にバンドを作らないか?」と提案し、彼らは軍隊の中で5人編成やトリオなど、いくつかの形態で軍隊内のクラブハウスを中心に音楽活動を始めることとなる。
ある時期は“キング・カジュアルズ”と名乗って、基地のそばにある街のクラブなどで演奏していたという。






1962年7月、ジミ(三等軍曹)は陸軍を除隊する。
イギリス人の音楽記者クリス・ウェルチが’70年代初頭に著した伝記などでは「パラシュートの降下訓練で負傷したため軍隊を除隊になった」という説明がなされている。
また、一説によると「早期に軍役を終えて音楽活動に移ろう」と考え、軍隊で忌み嫌われる同性愛者を装うなど、故意に問題を起こしていたというが…除隊の真相は明らかになっていない。
その2ヶ月後にビリーも軍隊を去る。
同年の10月頃、ナッシュビルにたどり着いた彼らは、地元のクラブ『Del Morocco』の支配人に会いに行った。
そこで二人は“ジョイスの神秘の家”という名前の店の二階で寝泊まりさせてもらえるようになる。
演奏のギャラは安く、アパート代も払えず野宿をすることも多々あった彼らにとって、そこでの共同生活がまさに“はじめの一歩”だった。
生きていくために、ジミとビリーの二人は様々な歌手やグループのバッキング奏者を務めたという。
ナッピー・ブラウン、カーラ・トーマス、スクール・ボーイ、アイアニング・ボード・サムなどなど…
ジミはギタリストして、あの「Please Mr. Postman」をヒットさせて人気絶頂にあったモータウン所属マーヴェレッツや、当時インプレッションズとして活躍していたカーティス・メイフィールドとのパッケージツアーなどでも演奏していたという…



<引用元・参考文献『ジミ・ヘンドリックス エレクトリック・ジプシー〈上〉』ハリー・シャピロ(著)シーザー・グレビーク(著)岡山徹(翻訳)/大栄出版>




【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

【TAP the POP佐々木モトアキ執筆記事】
http://www.tapthepop.net/author/sasaki


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