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TAP the STORY

ある夜、夢のなかで聴こえていた曲

2016.06.11

U2のボノが27歳の誕生日を迎えてから1か月が過ぎた1987年6月のある日のこと。

発表されたばかりの新しいアルバム『ヨシュア・トゥリー(The Joshua Tree)』は、U2にとってターニングポイントとなった作品だった。

ヨシュア・トゥリー

サウンド面やメッセージ性において大きな成長を遂げたことによって、そのアルバムは各方面から絶賛されていた。

しかしヨシュア・トゥリー・ツアーのためにロンドン市内のホテルに滞在していたボノは、ライブ本番を翌日に控えた不安と緊張から眠れない夜を過ごすことになった。

気分転換に手元にあったデビット・リンチの映画『ブルー・ベルベット』のサントラ盤をかけてみたが、眠りはなかなか訪れず時間だけが過ぎていく。

そのうちに収録されていた1曲が、どういうわけか頭から離れなくなってしまった。

それは映画の中で効果的に使われていた「イン・ドリームス(In Dreams)」で、ロイ・オービソンが1963年に放った全米7位のヒット曲だ。


 夢のなかで 君と歩く 
 夢のなかで 君と話す 
 夢のなかで 君は僕のもの  
 いつでも一緒さ 夢のなかでは
 
 だけど夜明け前 目が醒めると
 君はどこにもいない


翌日の朝に目が醒めると、ボノの耳の中では不思議なことに知らない曲が鳴っていた。
ライブ会場に行って本番前のサウンドチェックをしているとき、ボノは曲の一部をメンバーの前で歌ってみせた。

♪She’s a mystery to me 
 She’s a mystery girl ♪

「なあ、この曲ロイ・オービソンっぽくないか?」
「ああ、確かにオービソンっぽいな」


その夜、本番が終了して楽屋に戻ると、係員がボノにこう言った。

「ロイ・オービソンの奥さんと名乗る方が、あなたにお会いしたいそうですが‥」


その言葉を聞いて、ボノはあまりの偶然に驚いた。
だが、さらに吃驚させられたのは奥さんと一緒に、ロイ・オービソン本人が現れたことだった。

U2ファンの奥さんに連れられてライブに来ていたオービソンは、アメリカで1955年にロックンロールが爆発した年にデビューしていたので、そのときは51歳になっていた。

ボノに向かって、オービソンがこう言った。

「もしよければ1曲、ぼくに書いてくれないか?」


後になって「She’s a Mystery to Me」と名付けられてオービソンに送られた歌は、ボノの夢のなかから生まれた曲だった。


ロイ・オービソンは1988年に第一線にカムバックしたが、同年12月6日に心筋梗塞で52年の生涯に終止符を打った。
「She’s a Mystery to Me」を収録したアルバム『Mystery Girl』は、1989年に発表されて遺作になると同時に最大のヒット作となった。

(注)本コラムは2013年に、TAP the STORY「ある夜、夢のなかで聴こえていた曲」として公開されたものの改訂版です。

Roy Orbison『Mystery Girl』
Sony

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