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ボブ・ディランとジョーン・バエズ〜グリニッジ・ヴィレッジで出会った二人の恋物語

2019.09.14

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1950年代末から1960年代初頭、ボブ・ディランは社会の激動と共に転機を迎える。
生まれ育ったミネソタからニューヨークへと身を移し、当時プロテストソングの先駆者として活躍していたアーティスト達から新たな刺激を受ける。
ウディ・ガスリー、ピート・シーガー、ジャック・エリオット、オデッタ、デイヴ・ヴァン・ロンクなどなど、ディランは彼らの歌や生き方から多くのものを学ぶ。
そしてジョーン・バエズと出会い、彼の運命は大きく変わり始める…

「私が初めてボビーと出会ったのは1961年だった。グリニッジ・ヴィレッジにあったイタリア風のバー&レストラン“ガーディス・フォークシティ”で演奏している彼を観た。よれよれの革ジャンを着て歌う彼の曲は、どれも独創的で新鮮だったわ。柔らかくて感覚的、それでいて子供っぽく、敏感で寡黙なイメージ。彼は自分の歌の中に“言葉”を吐き出していた。」


その日、演奏が終わるとディランはジョーン・バエズのテーブルに行き、立ったまま独り言でも呟くように挨拶をしたという。
彼女はシャーリー・テンプル(レモン・ライム・ソーダをベースとしたノンアルコールカクテル)を飲みながら、彼の顔をじっと眺めていた。

「ボビーという青年は今まで出会った連中とまったく別格だった。人の心を打つ何かを持っていることは間違いなかったわ。その瞬間から私の心が何かに向かって動き始めたのを憶えている。」


彼らが“特別な関係”になるまで時間はかからなかった。
のちにジョーン・バエズは当時の心境を「Diamonds And Rust」という曲の歌詞にしたためた。


あなたはいきなり登場し
そしてすでに伝説
磨かれていない原石
生まれながらの放浪者

今、私たちはあの安ホテルの窓辺で微笑んでいる
ワシントン・スクエア広場を望みながら
二人の息は混じり合い窓を曇らす
正直に言うわ…あの時あそこで死んでもよかったのよ





ニューヨークのマンハッタン区グリニッジ・ヴィレッジにあるワシントン・スクエア公園を見下ろすその安ホテルは当時一泊12ドルだった。
ルームサービスはなく、麻薬常習者や売人などニューヨークに流れ着いた怪しげな下層階級の人間がそこを定宿にしていた。
ジョーン・バエズが宿泊していた部屋でディランは我が家に帰ったかのようにくつろいだという。

「私たちは恋に落ちていた。私は彼より6ヶ月歳上なだけなのに、まるで彼の母親にでもなったような気がしていた。同時に私は彼の姉でもあり、彼がジャックなら私はクイーン、双子の星の片割れでもあった。私たちはそのホテルで神話から抜け出したような時間を過ごしたわ。」


出会ったばかりの二人は、冷たい風の吹きすさぶ街をあてもなく歩き廻り、午後になる頃にマクドゥーガル通りで遅い朝食を食べていた。

「二人の白い吐息が一つに溶け合い、冬の空をさまよう…あの時、あの場所でなら一緒に死ねた。本当にそう思えたの。」


やがて二人は歌をわかちあうようになる。
ジョーン・バエズはディランと出会った年の9月に『Joan Baez Vol.2』を発表し、ゴールドアルバムを獲得した。
彼女は“フォークの女王”と称される存在となり、自らのブレーンや聴衆にディランの才能を紹介するようになる。
ニューヨークを中心に巻き起こったフォークリバイバルのムーブメントの中、当時コロムビアレコードのプロデューサーだったジョン・ハモンドが“次に売り出す”アーティストを探していた。
そのうちの一人であった女性シンガーのキャロリン・ヘスターのレコーディングに(本人からの依頼で)ディランはハーモニカの演奏で参加する。
同年、ハリー・ベラフォンテのアルバム『Midnight Special』レコーディングに参加したことや、タイムズ紙で好意的に論評されたことをきっかけに、ディランはコロムビアと契約を交わす。
翌1962年3月、ディランは1stアルバム『Bob Dylan』でデビューを果たす。


「ボビーにはある種のカリスマ性があった。私は彼を束縛しない唯一の人間になりたいと思う一方で、凄まじいまでの独占欲を胸に秘めていた。私たちはお互いの自由を尊重していて、束縛のようなものは一切なかった。あるのは心地の良さと、笑いと、溢れる愛だけだった。それに彼の才能は私にとって最高の楽しみでもあった。」


<参考文献『ジョーン・バエズ自伝―WE SHALL OVERCOME』ジョーン・バエズ (著)矢沢寛(翻訳)佐藤ひろみ(翻訳)/ 晶文社>

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