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レイ・デイヴィス〜古き良き時代への渇望

2014.05.17

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キンクスといえば、1960年代のブリティッシュ・ロックを代表するバンドのひとつ。1970年にも「Lola」が英米両国で大ヒットし、アルバム『Lola Versus Powerman and the Moneygoround, Part One』は評価、売り上げともに好調だった。

1971年にキンクスはRCAとアルバム5枚の契約を交わす。契約金は100万ドルとも言われた。バンドのボーカル兼ソングライターのレイ・デイヴィスは押しも押されもせぬロック・スターだった。しかし、27歳になったレイ・デイヴィスの関心は、いわゆるロックにはなかった。当時のインタビューでこう語っている。

「このグループにロックンロールに向かう傾向があるのは、弟のデイヴが激しい音楽が好きだからさ。僕の好みは違う。僕はフレッド・アステアが好きなんだから」


1971年という現在にも、かといって未来にも生きていなかった彼は、望んで自らをアナクロな世界に住まわせた。昔ながらの英国の庶民の生活様式が破壊され、失われていく現状に警笛を鳴らし、その郷愁を歌ったのだ。
同年にRCA移籍第1作として発表されたアルバム『Muswell Hillbillies』のジャケットは、パブのカウンターで立ち飲みするメンバーの写真だった。デイヴィス兄弟が育ったマスウェル・ヒルを舞台にした作品で、庶民の暮らしと時代の変化が彼らの人生に及ぼす影響を歌っていた。

「人々が本来そうでないものにされてしまうことについての作品だ。英国について、その人々の一部に起こったことについて、ささやかな声明をしたかった」とレイは語っているが、都市開発によって生まれ育った地区から郊外の公営団地に移住を余儀なくされ、昔からの生活や記憶から切り離された人々の中には、彼の祖母をはじめ、親戚や知人が何人もいたという。

レイはこのアルバムを映画にしたいという希望を持っていたそうだが、それから1970年代半ばまでは、英国社会の変化を主題に演劇的なコンセプト・アルバムを次々と発表していく。ロック・バンド、キンクスにとっては半ば自殺的行為だったが、レイには自分の詩神に従うことのほうが重要だったのだ。


ロックンロールに向かう傾向
1978年にヴァン・ヘイレンが「You Really Got Me」のカバーで鮮烈なデビューを飾ったことにも刺激され、その時期から再び前面に出てくる。1979年の『Low Budget』などで聞かせたハード・ロック寄りのサウンドはアメリカでの人気を取り戻すことに貢献した。

演劇的なコンセプト・アルバム
1970年代にレイ・デイヴィスが自分の望むようなアルバムを制作できたのは、RCAとの高額の契約金を有効に使って、自前のスタジオを作ったからでもある。そのコンク・スタジオは1973年に営業を開始。以降のキンクスの作品のほとんどがコンク・スタジオで録音されてきた。2010年にレイが売却の意向を表明したが、翌年、まだ作らねばならないレコードがあるとして売却を延期している。

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キンクス『Muswell Hillbillies』

(1971)


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