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【山口洋】〜ライブイベント「音楽愛」出演者スペシャルインタビュー②

2025.02.08

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TAP the POP初ライブイベント「音楽愛(ONGAKU LOVE)」
出演者スペシャルインタビュー②〜山口洋


2025年2月28日(金)に横浜ReNY βで開催される、TAP the POP初のライブイベント『音楽愛(ONGAKU LOVE)』。「音楽が秘めた力を、もっと多くの人に広めたい」「音楽が持つ繋がりや物語を、次の世代に伝えたい」というコンセプトに賛同してくれたアーティストが出演をする。

ライブイベントのタイトルにもなっている“音楽愛”を語ってもらう今回のインタビューシリーズ。第2回は弾き語りで参加する、山口洋。HEATWAVEのギター、ヴォーカルとして、1979年から第一線で活躍する彼の“音楽愛”について迫る。 (取材・文/石井由紀子) 

1977年12月26日、お互いの才能がスパークした日


──山口さんは長いキャリアの中で、音楽を通してさまざまな出会いや経験をされていると思います。その中で、心が震えたエピソードを教えてください。

山口 音楽が無かったら、死んでますね(笑)。これしか自分が出来ることなかったし、社会でコミットする方法は音楽しかなかったので。

プロになって10年ぐらいした時、日本の音楽界に絶望したことがあって、ニューヨークに行ってやり直そうと思ったんです。そんな時、ファンからVHSのビデオが送られてきた。その人は老人福祉施設みたいなところで働いていて、俺の曲を歌っていたの。そしたら、おじいちゃんおばあちゃんが覚えちゃって。みんなが俺の曲歌っているのを見て号泣しちゃって、車で。俺が役に立っている。やっていて本当に良かった。その為だったら一生懸命に生きられると思いました。

──世代も超えた音楽のチカラを感じますね。山口さんの音楽との出会いはいつだったんですか?

山口 幼稚園の頃から。近くの高校から吹奏楽の音が聞こえてくると、『巨人の星』の明子さんみたいに電柱の影に立ってずっと聴いてた。「すげえ!」みたいな(笑)。

で、小学4年ぐらいの時に、福岡の天神の「フタタ」っていう有名な洋服屋さんのビルで、ビートルズの『レット・イット・ビー』の試写会をやっていて、初めて動くビートルズを見た。もう、雷が落っこちたような衝撃を受けてね。親父に「お願いだからレコードを買ってくれって!」

穴が開くぐらい聴いてたら、家にピアノがあったので「レット・イット・ビー」が弾けそうな気がしたの。絶対、弾いてやるって決めて、1ヶ月ぐらいかけて音を探して、鍵盤にテープとかで貼って、「次はこれだ!」って覚えて弾いたんですよ。あれはキーがCだったの。Cってものすごく簡単。黒鍵があんまり出てこないから。そんな感じで始めたんです。

でも14歳の誕生日まで絵描きになろうと思ってました。誕生日に、ずっとギターを弾いていた友達の家に遊びに行ったら、そいつがギター教えてくれて、俺がそいつに絵を教えたんですよ。そしたらそいつが6年ぐらいかけたことを、俺は2日ぐらい出来ちゃう。で、俺が絵を教えたら、俺が描いてきたこと何だったの?みたいな感じで。そいつは藝大に行って画家になったんですけど。あれは1977年の12月26日。そこからは1回もブレてない。

翌日、家にギターがあったんで、家でジャカジャカと弾きながら、覚えたての小椋佳の「さらば青春」を歌っていたら、親父の目が丸くなって。「お前、いつ始めた?」って聞かれて、「昨日だ」って言ったら「嘘だ!」って(笑)。

福岡が育んだ、山口洋の音楽ルーツ


──幼少期から音楽への想いが一貫していますね。まるで映画のような展開に驚きます(笑)。14歳で決心した気持ちや情熱が、今に繋がっていくのでしょうか?

山口 高校時代は中途半端な進学校に行ってたんです。田んぼの真ん中に高校があって。梅雨時でカエルが5万匹ぐらい鳴いているようなところ。その瞬間、虫唾が走って「こんなために生きてきたんじゃねえ!」って思ったら、天啓が降りてきて。本当に日本語で「バンドをやれ」って(笑)。

教科書の端っこちぎって、「お前が歌え」「お前がベース」って決めて。それで出来たのがHEATWAVE。その高校に行ってなければバンドもやってない。でも、みんな大学の受験勉強で辞めちゃうから、「こんな根性無しでHEATWAVEは出来ねえ!」って、高校の中でメンバーを探したりしてました。

──HEATWAVEを結成した高校時代の頃は、どんな音楽を聴いていたのでしょうか?

山口 福岡って本当に素晴らしい文化があって。亡くなった鮎川誠さんにお礼言いましたけど、彼らが最初に始めてくれて、レコード屋とかを残してくれたんですよ。彼の仲間がレコード屋さんやっていて、怖いんだけど、行くといろいろと教えてくれるんです。

だから10代にして、もうルーツ・ミュージックも聴いてるわけですよ。ローリング・ストーンズのレコード買ったら、「君はストーンズ好きだったら、ブルース聞いてみたらどう?」って言われて。ブルースって悲しみの音楽だから、おいそれとやっちゃいけないんだとか、彼らはあれがないと生きていけなかったとか、根元のところまで探求して。その一連の流れで僕はアイルランドまで行くわけですけど。あの影響は大きかったですね。

自分が住んでいた町にも小さなレコード店があってね。店主が黒づくめで、いつも俯いて座ってて。俺がルー・リードの『トランスフォーマー』を出したら、サングラスの店主が「私は・・・このレコードが売れる日を・・・夢見ていたの」って言われて。怖かったな(笑)。でも、面白いでしょう? 今はこういうこと起きないからね。

──確かに、環境が人を育みますよね。ギターを買ったのはその頃ですか?

山口 ルー・リードがヴェルヴェット・アンダーグラウンドの時に抱えている、グレッチのカントリー・ジェントルマンっていうギターがあって、それを買うんだって決めてたの。ある日、友達から「おい、洋! カントリー・ジェントルマンがベスト電器にあるじぇ!」って電話があって。1円も持ってなかったんですけど、 すぐに電話して「それ、僕が買います!」って手に入れたギターが、今も僕のメインギター。あの時、50万円ぐらいだったかな。18歳の時、もちろんローンでね。

「お前はバカか」と本気で怒られた


──音楽が、山口さんの生き方や佇まいにも繋がっているように感じます。海外の音楽家にも親交がある中で、その方たちが、気付きを与えてくれたことはありますか?

山口 20代の終わりの頃、プロになって何だか息苦しくて。世界を流浪しているのが半分、日本にいるのが半分みたいになっちゃってね。あれはアイルランドだったかな。大好きなプロデューサーがいて、彼と飲んでて、俺が “I lost my contract.”(契約を失ってしまった)みたいなことを言ったら、「お前はバカか?」って本気で怒られた。

「契約っていうものは、お前がしてもらうもんじゃなくて、お前がするもんなんだよ。お前には才能があるんだ。ふざけんな」って言われて目が覚めて。「もう一つだけ言っておくけど。今、お前が俺のところに来るように、10年もしたらお前の所に若い羊たちが来るから、絶対にそれを拒むな。お前が誰かにいろんなノウハウを継承することは、お前が学んでることなんだよ。そこを忘れなければ、お前はきっと上手くいくから大丈夫だ」って言われて。

──胸に刺さる話ですね。

山口 初めてニューヨークで生活をした時に、危ないエリアのアパートで居候をすることになったんだけど、初日にいきなり隣の部屋で麻薬の取引と殺人があった。さすがに俺もビビって。それで深夜2時頃、ハーレムへ地下鉄で行かなきゃいけない用事があったから、家主で兄貴分のフォトグラファーに「今日、深夜2時に地下鉄でハーレム行くんだけど、大丈夫かな?」って聞いた。

そしたら、この世にこんなに侮蔑した顔があるんだって顔で、「あのさ、お前が大丈夫だったら、大丈夫かもしれないけど、お前が大丈夫じゃなければ、大丈夫な訳ないだろう!」って怒られて。その瞬間に、今まで日本で背負ってきた全てのことが崩れて、“だからダメだったんだ”って、道が見えたの。

人生に、Fear(恐れ)は必要だけど、それに突き動かされちゃダメなんだ。無鉄砲って言葉も違うけど、自分で責任を持って道を作っていくことが、人生なんだって分かってから、組織に頼ることを辞めていく方向に行ったんですよね。できる限り独立して。そしたら、何をやったってルールが俺だから。私利私欲でやっているのではなくて、「社会とか世界とかが少しでも良くなる方向にするためには、自分は何ができるのか」って思えるようになった。

──これまでのお話も含めてですが、全て情景が浮かんで、どれも面白いです。

山口 退屈に生きる必要なんかどこにもないっていうか……友部正人さんが好きなんですけど、「仙山線」って新曲のクオリティーがすごすぎて。仙台から山形につながる仙山線っていうのがあって、渓谷を走っていくと神社仏閣があるような、風光明媚な電車があるんです。で、友部さんの「仙山線」の歌詞の1行目が“仙山線で熊が轢かれた”。「えぇっ!」ってなって。サビが “ポテトサラダ”って言うんですよ! もう、ブッ飛びすぎてて。それは俺が言うと信憑性が無いけど、彼が歌うとめちゃめちゃ風景が見えるわけですよ。

「友部さんって歌書くときに、考えてませんよね?」って言ったら、「え、考えちゃダメだよ」って。すげえなと思いました。思考っていうのは、良くないんですよ。「こう書いたら、どう思われるだろう」とか、そうじゃない。

“空”の状態でステージに立って演奏する
そこに40数年かけてようやく辿り着いた


──ライブ活動での音楽の面白さ、真髄とは何でしょうか?

山口 優れたミュージシャンって、近未来が予測できないといけないんです。アイルランドは英語が入るまで口承だったんで、音楽も全部口伝えなんですよ。ある時、アイルランドのでっかいステージで、バンドでライブやってたら、知らない曲が始まって「やべえ」と思って。隣で弾いてたブライアンってやつに、「ヘイ! ブライアン! この曲知らねえ!」って言ったら、ブライアンが「はぁ? 今、知ればいいじゃん!」って。

知らなかったら、知ろうとすれば良いだけ。だけど、みんな「失敗したらどうしよう」って先に考えてしまう。そうじゃなくて、知ろうとして、そこに入っていけば良くて。知らない曲を演奏するのって、本来ワクワクするものだし。今、知りながら、そこに乗っかっていくって、音楽の一番フレッシュなところなんですよ。

音楽は考えちゃダメ。ファーストテイクが一番良いし。それまで俺は考えてた。でも考えたら間に合わないですよ。その日から俺は、未来を予測しながら知らない曲を演奏できるようになりました。ある程度の技量があれば、そんなにリハーサルもいらないし。ファーストタッチが一番面白いですよ。

──大抵の場合、考えないって意識している時点で、考えてしまっているようなこともありますよね。

山口 コップに水が注げる状態と一緒で、コップが空っぽになっていればいい。「空」と「無」の違い。英語で言うと、“empty”と“nothing”。“empty”にしてればいいんです。“nothing”だと何も無いけど、“empty”は有るんだけど無い状態。だから、水は注げる。

演奏してる時、「空」の状態になっていれば、作為的では無くなる。そこに40数年かけて、ようやく辿り着けている感じなんで。 “こうしてやろう”とか、“ここでぶちかましてやろう”みたいなことでは全くない。エネルギーがマイクの向こうに放たれて行く。それが「空」なんです。

──ちなみに、今回のライブはどのような曲を演るか決めていますか?

まだ何も考えてないな。前後を見るかもしれないし、前後を見たら変えるし。俺が俺がっていう主張はもうないので、トータルの流れの中で、どういうポジションとして、ここに呼ばれているのかって。空気を判断してやればいいんじゃないかなって思ってます。


山口洋さんは当日、弾き語りでライブに参加。人生や生き方にも触れるようなライブをぜひお楽しみください。

    山口 洋(やまぐち・ひろし)

    1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。

    1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、被災した人々を応援し続けている。

    仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。

    山口洋ブログ「ROCK ‘N’ ROLL DIARY」は、ほぼ毎日更新中。

★2つの大切なお知らせ★


【一夜限りのスペシャルライブが実現! 人気のチケットはお早めに!!】

TAP the POPが初ライブイベント『音楽愛』(ONGAKU LOVE)を開催します。
豪華6組の弾き語り&バンドが出演。さらにゲストを迎えたトークショー、
次世代の音楽シーンを担う新しい才能も紹介します。
二度とないアーティストの組み合わせは、誰かに語れる貴重な体験になります。

「もう何年も何十年もライブハウスに行ってない」
「生で音楽を楽しむことの興奮を取り戻したい」
……そんな人も大歓迎。“音楽愛”の復活を共に祝福しましょう!

TAP the POP 音楽愛 (ONGAKU LOVE)
2025.2.28 FRI @横浜 ReNY β
OPEN18:00/START18:30


▼出演
冷牟田竜之(ex東京スカパラダイスオーケストラ/Taboo)
山口洋 (HEATWAVE)
ショコラ&アキト(片寄明人/ GREAT3)
イエロースタッズ
THESE THREE WORDS(冷牟田竜之)
金子駿平
佐々木モトアキ
吉澤成友(YOUR SONG IS GOOD)


★チケット入手方法

※「通常チケット「スペシャルチケット」の2種類があります。

①通常チケット (人気上昇中につきお早めに!)
受付 : e+(イープラス)
受付期間 : なくなり次第終了
料金 : ¥6,600

▼通常チケットの購入はこちらから
https://eplus.jp/sf/detail/4257420001-P0030001P021001?P1=1221

②スペシャルチケット(リハ見学・記念撮影・サイン入りTシャツ・書籍・特設ページ名前入れなど数量限定)
受付 : CAMPFIRE(クラウドファンディング)
受付期間 : 2025年2月20日(木)18時まで
料金 : ¥8,000~¥50,000

▼スペシャルチケットの詳細・お申し込みはこちらから
https://camp-fire.jp/projects/view/811070

▼スペシャルライブイベント『音楽愛』について
https://www.tapthepop.net/extra/127354


【ご支援ご協力のお願い】

「音楽が秘めた力を、もっと多くの人々に広めたい」
「音楽が持つ繋がりや物語を、次の世代に伝えたい」
音楽コラムサイト『TAP the POP』は、今後の活動に向けてクラウドファンディングを実施中です。



豪華6組の弾き語り&バンドが出演する一夜限りライブの「スペシャルチケット」をはじめ、参加できない人のために、“ここでしか手に入らない”グッズや書籍のリターンをご用意しました。

この機会にぜひ❝音楽愛❞を一緒に育ててくれませんか。応援よろしくお願いいたします(下記の「音楽愛」ページで経緯や想いを綴りました)。

~リターンメニューのご紹介~
♪初開催ライブイベントのスペシャルチケット(数量限定/2月20日締切)
♪Tシャツなど7種の限定デザイン&ロゴ入りグッズ
♪約4,000本の原稿から厳選するベスト盤的書籍
♪ご支援いただいた全員の方を「音楽愛メンバーの証」として特設ページで名前入れ

▼ TAP the POPクラファン「音楽愛」ページ(CAMPFIRE内)
https://camp-fire.jp/projects/view/811070

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