TAP the POP初ライブイベント「音楽愛(ONGAKU LOVE)」
出演者スペシャルインタビュー⑤〜金子駿平
1994年生まれ。東京と宇都宮を拠点に活動する金子駿平。現在、弾き語りの楽曲を隔週で配信リリースし続けるほか、さらにはバンドスタイルでの表現も展開する彼に、シンガー・ソングライターとして活動するに至った経緯、自身にとっての「音楽愛」、そしてイベントにかける熱い意気込みを語ってもらった。(取材・文/宮内健)
高校の授業でやらされた弾き語りから
歌うことの楽しみに目覚めた
──シンガー・ソングライターとして活動されている金子さんですが、歌を歌うようになったきっかけは?
金子 僕が通っていた高校は総合学科といって、普通科とは違い、カリキュラムを自分で選べるシステムだったんです。数学が本当に苦手だったので、2年から数学を選択せず、体育と器楽にすべてをベットして。だから1日の授業が、“体育・音楽・音楽・器楽・器楽”で終わる日があったり。
──それはすごい一日ですね。しかも高校生(笑)。
金子 器楽の授業は、発表がテストの代わりになっていたんです。ピアノは普通に独奏すればいいんですけど、担当していた先生がクラシックを専攻したお嬢様タイプのような人で、ギターについてはあまり関心がなくて。それでなぜか、ギターの人は歌も歌いなさいと言われて、弾き語りで発表をすることになったんです。
その当時好きで聴いていたandymoriの曲を覚えて歌ったら、僕だけ褒められたんですよ。先生から「他にも歌える曲ないの?」と言われて、そこから発表のたびに新しい曲を覚えては歌って、毎回ベタ褒めされて。それまで人前で歌ったり演奏したことなんてなかったけど、なんか俺向いてるのかも?みたいな勘違いで始まり、今に至ってます(笑)。
──発表の時には先生の他にも、同級生たちもいるわけですよね。
金子 もちろんいました。自分の中にどこかに歌いたいっていう欲はあったんですけど、やっぱり恥ずかしさもあって。でも、授業で仕方なく発表しなきゃいけないっていう環境が後押ししてくれましたね。
──そもそも音楽は、どんなきっかけで聴くようになったんですか?
金子 うちの父の影響が大きいですね。父は洋楽が好きで、ビートルズやボブ・ディラン、デヴィッド・ボウイをよく聴いていたんです。僕は小学生の頃は音楽に興味を持ってなかったけど、せめて邦楽でもいいから、分かりやすくいい音楽を教え込まないといけないって思ったらしく。それで中学生になった時に、BUMP OF CHICKENの『jupiter』というアルバムを渡されて。そこから、なんか音楽っていいかもって思うようになりました。
──すごく素敵なお父様ですね!
金子 ありがとうございます。SEKAI NO OWARIもまだバンド名が漢字表記だった頃に、これいいなって父と喋ってた記憶があります。そのうちにビートルズを入口に洋楽を聴くようになって。父はボブ・ディランが一番好きなんですけど、最初は良さがあまりよく分からなかったです。だけど、ディランの楽曲の隠れた美メロとか、たくさんの人がディランをカヴァーしているんだぞとか、片っ端から教えられて。今では僕もディランが一番好きになりました。
──おそらく金子さんのお父様ぐらいの世代が、TAP the POPの初期からの読者層なんですよね。
金子 父に「TAP the POPの音楽愛というイベントに出るんだ」って言ったら、イベントの概要やサイトの記事を見て「自分にドンピシャだな」って言ってました(笑)。上がってる記事の内容も、父から聞かされていたエピソードがあったりもして。
──そういう親子の関係っていいですね。ちなみに、ディランの中で好きなアルバムは?
金子 選びづらいですけど、やっぱり『Blonde on Blonde』とか。ディランを聴くと、メロディーの深みを学べる感じがして。歌詞も自分で和訳して理解しようとしたんですけど、宗教や神のオマージュが多用されているので、理解しきれない部分も多いです。だけど、声質や声の出し方とかやっぱり「すげぇ」って思いますね。シンプルだけど、ディランという絶対的な歌声があって、その上でいい曲いいメロディーだから歌い継がれるっていう、なんかそこに凄みを感じます。
──さて、高校の授業ではカバー曲を弾き語りしていた金子さんが、自作の曲を歌うようになったのは?
金子 高校を卒業してから、コンテストに向けて作ったのが最初です。何かを生み出す感じが楽しかったし、その感覚は今も変わらず続いてますね。もちろん産みの苦しみもあるけど、苦しいより楽しいほうが勝るっていうか。だから、今でも音楽やってて一番楽しい瞬間って、曲を作っている時なんです。

歌で「何かを言いたい」というよりも
「こう言いたい」という気持ちが強い
──そんな金子さんは昨年12月から今年の10月まで、弾き語りの楽曲を隔週でリリースし続けていくそうですね。その数、なんと23曲!
金子 最近お世話になってる井上健太さんは、ドラムやベースを演奏するミュージシャンでいて、レコーディング・エンジニアとしても活動されている方です。「駿平くん、いっぱい曲あるから弾き語りで出そうよ」と提案してくれて。一日スタジオを借りて録れるだけ録ったのを、隔週で配信リリースしています。
──弾き語りスタイルの曲は、金子さんも大好きだというボブ・ディランの影響を感じます。早いストロークで言葉を畳みかけていくような楽曲もありますが、すごくグルーヴしているし、日本語の語感や言葉遊び的なワードのチョイスもしっかり噛み合っている印象を受けました。
金子 嬉しいです。語感を重視したり韻を踏むことは、自分でもこだわっているところであって。これも父の影響なんですけど、歌謡曲も好きなので。松本隆さんが書いた松田聖子さんの歌詞なんかを勉強すると、メロディーと日本語の響きの親和性の大切を改めて感じるし。
あとは井上陽水さんも大好きです。ストーリー性やメッセージ性を突き詰めるというんじゃなく、言葉遊びのような、歌っていて気持ちいいフレーズを探してしまうというか。だから僕の場合は歌で「何かを言いたい」というよりも、「こう言いたい」という気持ちが強いのかもしれません。なので、曲を作る時は、メロディーと言葉が一緒に浮かぶことが多いです。
──弾き語りでの表現と並行して、バンドスタイルでの演奏活動も展開されています。2023年にリリースされた『グッバイベイビー』というミニアルバムは、少し密室的な生々しいバンドサウンドに、ペダルスティールや鍵盤の遊び心に満ちた浮遊感のあるサウンドが溶け合う名盤です。
金子 ありがとうございます!
──今回のイベントは、金子駿平 and The Red Listというバンド編成で出演いただくということですね。
金子 はい。ニール・ヤング&ザ・クレイジーホースみたいなイメージで名付けて、その日その日違うメンバーでやっていくという形態で作ったバンドなんです。去年の11月に初めてライブをやったばかりで、まだ模索中ではあるんですが。
実は今回のイベントは、冷牟田竜之さんに声をかけてもらって参加することになったんです。以前、冷牟田さんが僕のライブを観てくれたことがあって、その時に演った「竜胆(りんどう)」という曲をすごく褒めてもらって。その日はバンドセットでのライブだったんですが、対バン企画で山﨑くるみさんという三重県在住のシンガー・ソングライターと一緒で、「竜胆(りんどう)」では彼女にもコーラスで参加してもらったんです。実は、山﨑さんと一緒に歌うために新たに作った曲だったんですけど。
──そうだったんですね。
金子 今回のイベントでは、せっかくだから「竜胆(りんどう)」も歌いたいと思うし、そのために山﨑くるみさんを三重から呼んで、特別なバンドセットでライブに挑もうと思ってます。
──おお、気合い入ってますね。嬉しいです!
金子 さらにイベントに向けて「竜胆(りんどう)」をレコーディングしました。バンドは一発録りでやったんですが、僕にとっては初めての経験で。レコーディングのためにアレンジもブラッシュアップして、さらに曲に対しての思いが強くなっていて。TAP the POPの読者の方たちにも刺さるんじゃないかと。自分の父のような世代の人たちに向けて演奏する機会ってなかなかないので、僕自身もこのイベントで歌えることを楽しみにしています!

今回のイベントでの金子駿平 and The Red Listのメンバーは、中西和音(ドラム)、井上健太(ベース)、伊藤里文(キーボード)、松本啓聖(ギター)、山﨑くるみ(コーラス)です。よろしくお願いします。思い切り楽しみます。

- 金子駿平
1994年生まれのシンガーソングライター。栃木県『ROCK BERRY AUDITION ‘16』にてグランプリを獲得。翌年には日本コロムビアの『半熟オーディション』に合格した。
ミニアルバム『NEW LIFE Ⅱ』では、初恋の嵐のベーシストである隅倉弘至氏がプロデュースを担当。現在は東京都内や地元・宇都宮を中心に活動している。
金子駿平公式サイト