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ルビーの指環物語・後編〜3部作同時チャートイン、その伏線とビートルズをモデルにした常套手段

2019.02.05

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「指環」と書いて“ゆびわ”と読ませたこの昭和歌謡を代表するミリオンセラーソングは、寺尾聰の5thシングルとして1981年2月5日にリリースされた。
当時33歳だった寺尾の歌手としての出世作であり、彼にとって最大の売上を記録した作品である。
リリース当初はさほど売れていなかった一曲の歌が、発売から1ヶ月程経った後から徐々に売上を伸ばしていき…わずか数ヶ月のうちに日本の歌謡史に残る大ヒットとなった。
さて今回は、これほどまでに“売れた歌”にまつわるエピソードを前後編に渡ってご紹介します。
いったいどんな経緯で楽曲が誕生したのか?
担当プロデューサーが仕掛けたプロモーション戦略とは?


「ルビーの指環」の大ヒットにより、前年に発売されていた3rdシングル「SHADOW CITY」、4thシングル「出航 SASURAI」も相乗効果でヒットするとう現象が起きた。
TBS系『ザ・ベストテン』では「ルビーの指環」と「SHADOW CITY」、「出航 SASURAI」の3曲が同時に10位以内にランクインするなど、まさに“異例の快挙”を遂げた。


当時の音楽業界を驚かせたこの“相乗効果”を仕掛けたのが、東芝EMIのプロデューサー・武藤敏史だった。
“寺尾聡プロジェクト”と称された戦略の指揮を任されていた武藤は、「SHADOW CITY」リリースからわずか2ヶ月後に「出航 SASURAI」のリリースを決定した。
この異例とも言える短期での連続リリースは、実は当初から計画していた「ルビーの指環」を売るための伏線だったのだ。
武藤は当時を振り返ってこう語る。

「最初に寺尾さんが作ってきたデモテープを聴いた段階で“この3曲をシングルにしよう!”と思いました。まずは導入部としての“SHADOW CITY”があって、2作目はゆったりとしたテンポの“出航 SASURAI”を持ってくる筋書きを描きました。それは常套手段かもしれないけれど、ビートルズが“抱きしめたい”や“Twist And Shout”をやった後に“イエスタデイ”や“ミッシェル”といったバラード系を持ってくるイメージでした。」


その頃、武藤にはある“腹案”があったという。
それは、寺尾聡の3部作で“日本のAOR”を作るというものだった。

「1980年という年は松田聖子がデビューして、後のアイドルブームに繋がる最初の頃でした。一方では繊細なフォークとイーグルスのようなロックサウンドが成功していたので、アイドルと両極をなすような“大人向けの音楽”をどうしても作りたかったんです。日本のAORにあたる音楽、それが寺尾聡3部作のコンセプトでした。」

「SHADOW CITY」でスタートしたYOKOHAMAタイヤとのタイアップCMも、シングル予定の3曲を年間通してシリーズで流れるということが決定する。


「ちょうどその頃、ヨコハマゴムでも大人向けのラジアルタイヤを売り出したかった。そのコンセプトと僕達がやろうとしていた方向性が一致したので、このタイアップが実現したんです。」

ところが1980年10月にリリースされた「出航 SASURAI」へと切り替わったCMソングが、急遽「SHADOW CITY」に戻されたのだ。
この時、一体なにが起こったのだろう?

「こちらの意向で元に戻してもらったんです。というのも“SHADOW CITY”が浸透してゆくのに時間がかかったこともあって、発売から一ヶ月経った9月あたりから少しづつセールスが伸び始めたんです。そこでヨコハマゴムさんに連絡をとって、CMを戻してもらうようお願いをしました。」

結果的に、この決断が一連の寺尾聡のムーブメントに拍車をかけるきっかけとなった。
有線放送でも「SHADOW CITY」が盛んに流れ始め、それに導かれるように“新曲”ということで「出航 SASURAI」にも注目が集まり、30万枚を超える成功を収める。
「出航」と書いて“さすらい”と読ませたのは寺尾聡自身によるアイディアだったという。
大人の男を感じさせる歌詞の内容、そして曲のタイトルも、彼の音楽世界を広げてゆくポイントとなり…翌年に「指環」と書いて“ゆびわ”と読ませた昭和歌謡を代表するミリオンセラーソングを生み出す必要不可欠な伏線となった。


<引用元・参考文献『J-POP名曲事典300曲』/富澤一誠(ヤマハミュージックメディア)>

■前編「ルビーの指環物語・前編〜29歳で経験した大病、石原裕次郎の一声、担当プロデューサーの戦略〜」も併せてお楽しみ下さい♪

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