「5月11日に書いたんだ、日付もハッキリ覚えている。何から何までー」
「何かが起ころうとしているのを感じ取っていたんだろう。それが何でいつ起こるのか分かる訳がないんだけど、何かを感じていたんだ」
そんな予感にせき立てられるようにして、「Higher Ground」は作詞作曲からレコーディングまでをスティーヴィー・ワンダーは3時間でやり終えたという。
その頃のインタビューで、スティーヴィーはよく死に対する考えを語ったりしていた。『ローリング・ストーン』誌のレポーターには、「自分はもうすぐ死んでしまうような気がする」とさえ言ったそうだ。ドラッグをしていたわけでもなく、ただそんな予感につつまれていたのだ。
そして「Higher Ground」が収録されたアルバム『Innervisions』が発売された直後の1973年8月6日、いとこのジョン・ハリスが運転する車がトラックを追い越そうとしたところトラックに激突してしまい、トラックの荷台から落ちてきた丸太がフロントガラスを突き破って、助手席で眠っていたスティーヴィーの額を直撃した。
出血多量で意識不明のまま病院へ搬送されたスティーヴィーは頭蓋骨骨折、脳挫傷により約1週間意識が戻らなかった。事故の身体的ショックで臭覚と味覚を失い、しばらくの間は度々起こる頭痛に悩まされたものの、スティーヴィーは驚異的な回復を見せて、2~3週間後には大衆の前に姿を見せ、ファンは奇跡の生還と喜んだ。
メディアは彼の状態を伝えるニュースレポートを繰り返し「Higher Ground」にのせて伝えたことで、この曲は回復に向けた一種のスローガンともなった。
スティーヴィー自身はいやな予感が的中したと感じた。しかし、その事故が大切なことに気付かせてくれるためのものだったとも理解したと言う。
「僕の人生の2度目のチャンスなんじゃないかな。何かをもっとやるための、そして生きているという事実に面と向かうためのチャンスなんだ」
「Higher Ground」は輪廻転生について書かれた歌で、スティーヴィーもリインカーネーション(輪廻)を信じたいと言っている。スティーヴィー独特のアイロニーも交えながら、どんなことがあっても人はさらなる高みーHigher Groundーへ上っていくチャンスを与えられるのだという、希望と精神性を歌った歌だともいえるのではないだろうか。
人々よ 学び続けるんだ
兵士たちよ 闘い続けるんだ
世界は回り続けるんだ
だって先はそう長くはないからね
権力はウソをつき続けるんだ
人々が死に続ける間にもね
世界は回り続けるんだ
だって先はそう長くはないからね
もう一度トライさせてもらえるのが嬉しいよ
前に地球にいたときは罪だらけの世の中で生きてたからね
あの時よりももっと色んなことがわかっていることが嬉しいよ
トライし続けるさ
一番高いステージに届くまではね
Higher Ground/Stevie Wonder
この曲を1989年に大胆なロック・アレンジでカヴァーしたのは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ。最後のサビ部分ののコーラスに乗せた語りがアレンジされていて、スティーヴィー・ワンダーへのリスペクトが感じられる。
(スティーヴィーは知ってるんだ
誰も俺のことを引きずり降ろせないってことを)
一番高いステージに届くまではね
(だから、俺とスティーヴィー、見ろよ、
ファンキーサウンドにのせて漕ぎ出していくぜ)
一番高いステージに届くまではね
Higer Ground/Red Hot Chilli Peppers
この曲がレッド・ホット・チリ・ペッパーズ初のスマッシュ・ヒットとなり、一気に知名度を上げたのだった。インディーズからメジャーへ、まさに「Higer Ground 」が、彼らの存在を”Higer Ground”へと押し上げたと言ってもいいだろう。
参考文献:スティーヴィー・ワンダー心の愛 ジョン・スウェンソン著 米持孝秋訳
INNERVISIONS
MOTHER’S MILK
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