カナダのシンガーソングライター、ブルース・コバーンといえば、近年では世界各地で起こる紛争や環境破壊など、社会問題を歌うプロテスト・シンガーとして知られている。
しかし、1970年代に初めて日本でブルース・コバーンが紹介された時、ピュアな詩情を歌うイノセントなシンガーソングライターとして知られた。
その大きなきっかけとなったのは、1971年にリリースされたセカンド・アルバム『雪の世界』が、一部の音楽愛好家やレコード・コレクターの間で話題になったことからだ。その見開きのレコード・ジャケットに展開するモノクロームの美しい雪景色の遠景写真が、まずは人々を魅了した。

そして20ページに及ぶブックレットには、雪の写真とともにブルース自身の手書きによる歌詞が添えられていた。
曲目ごとに、いつ、どこで書かれた歌であるかが記されていて、まるでプライベートな日記を思わせる。それらは全て1969年~70年の間に書かれているのだが、5月や6月に書かれたものもあって、実は真冬に書かれたものばかりではないことがわかる。
しかし、レコーディングは1970年11月から71年4月までのトロントとあり、冬の厳しい、それこそ雪景色の中でレコーディングされたものと想像できるのだ。
極限まで音数を減らしたような削ぎ落とされた演奏と、素朴なブルースの歌声が、純白の雪のイメージと相まって詩情豊かに響いてくる。
強い風
白い空
野鳥が滑空する
ちぎれた煙は薄れ
パイプの中の残り火が
動く様はまるで
生命の始まりのよう
High Winds White Sky
ハイスクールを卒業すると1年ほどヨーロッパを放浪し、64年にはボストンのバークリー音楽院に入学している。そこでジャズの理論などを学ぶが卒業を待たずしてカナダに戻り、今度は地元のフォーク・ロックのバンドを転々とする。
そんなブルース・コバーンがカナダのインディーズ・レーベル、トゥルー・ノースからソロ・デビューを果したのは1970年のことだった。そして、その翌年に同レーベルからリリースされたセカンド・アルバムが、この『雪の世界』だ。
1975年に発売された日本盤のLPレコードには、中川五郎氏の手書き文字による解説と対訳が付けられていたそうだ。そして、2007年にリリースされたCDには、渚十吾氏による美しく詩的な解説が添えられた。静寂の中で研ぎ澄まされたブルース・コバーンの音世界が、聴く者の感性を刺激するのかもしれない。
パッケージも含めて全体がクリエイティヴな作品となっている、美しいアルバムなのだ。
One Day I Walk
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