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First Step〜飛躍の一歩にはならなかったフェイセズのデビューアルバム

──1969年、スモール・フェイセスのヴォーカリストだったスティーヴ・マリオットは、ピーター・フランプトンと共にハンブル・パイを結成するためにバンドを脱退する。

当時、バンドの存続に一番こだわったキーボーディストのイアン・マクレガンは、新しいスタイルとイメージを取り入れて「新たなバンドとして活動を続けていきたい」と、他のメンバー(ロニー・レーン、ケニー・ジョーンズ)に提案した。そして3人で話し合った結果、名前を“フェイセズ”にして新たなステップを誓った。

彼らは、たとえ名前くらい変えたところで、3人での再スタートが容易ではないこともわかっていた。ヴォーカリストが抜けてしまったため、それまでスモール・フェイセスに大きな期待を寄せていた大手レコード会社は、バンドの将来に興味を示さなくなった。それでも彼らは地道に練習を重ね、演奏にも曲作りにも熱を入れていった。

ちょうどその頃、ジェフ・ベックグループと決別したロン・ウッドは、3人のフェイセズと友好関係を結び、練習場でセッションをしながら次第にバンドに参加するようになっていた。

ロンと同じタイミングでジェフ・ベックグループを離れたロッド・スチュワートも、ロンとも強い絆で結ばれていたので、フェイセズの練習場に顔を見せるようになった。ロッドは当時、練習場となっていた地下室へ通じる階段の最上段に座って、彼らの演奏をよく聴いていたという。

──その年の初冬、ロッド・スチュワートとドラマーのケニー・ジョーンズは、ハイゲート(ロンドン中心部カムデン・ロンドン特別区‎にある地区)にある『ザ・スパニヤード』という居酒屋で軽く一杯ひっかけていた。

ケニーはその夜もドラムの練習に出かけるつもりでいたのだが、酒を呑みながら突然、ロッドにフェイセズへの加入を勧め始めた。実はロッドの方もバンドに勧誘されるのを待っていた気持ちがあった。当時、ロッドは彼らの音も気に入っていたし、メンバーのことも心良く思っていた。それに、そのバンドに加入したばかりのロン・ウッドと親友でもあったのだ。

ロッドが喜んでケニーの申し出を受け入れると、二人は車を飛ばして他のメンバー達に会いに行き、他のみんなもロッドがヴォーカリストとして加入することに合意するかどうか聞いてみた。もちろんメンバー全員の答えは一つだった。

ヴォーカル:ロッド・スチュワート
ギター:ロン・ウッド
ベース:ロニー・レーン(1973年以降、山内テツ)
ドラム:ケニー・ジョーンズ
キーボード:イアン・マクレガン

後に英国ロック史に残るスーパーバンドとなるフェイセズは、こうして結成されたのである。このメンバーの顔ぶれをみて契約を結んだレコード会社(ワーナー)も、彼らの活躍に大きな期待を寄せたという。当時、ロッドはすでにマーキュリーとソロ契約を交わしており、この年以降はバンドとソロの活動を平行しておこなうこととなる。


そして翌1970年3月21日、バンドは早くもデビューアルバム『First Step』をリリースする。ジャケット写真では、ロン・ウッドがシャレをきかせてアルバムタイトルと同名のギター教本を手にしている。

イギリス盤にはバンド名が「faces」と印刷されたが、アメリカ盤には前身バンドの名前の方が通りが良かったため「small faces」と印刷されていた。



「ローリング・ストーンズの人気に続け!」と、ロッドを迎えた実力派バンドの“飛躍の一歩”に期待をかけていたレコード会社の予想に反して、セールス面はあまり芳しいものではなかった。

音楽ファンの間では、“短期間でさほど労力をかけずに製作されたアルバム”と見なされ、ビルボードのチャートも119位が最高位だった。

ボブ・ディランのカヴァー曲「The Wicked Messenger」から始まる全10曲のうちの多数がロニー・レーンとロン・ウッドのどちらかが作った楽曲、もしくは共作したものだった。

メンバーの中には「今にロッドが手の届かないほどの人気者になって、自分達の影が薄くなってしまうのでは…」と懸念していた者もいたという。

ロニー・レーンもイアン・マクレガンも天国に旅立ってしまった今となっては、当時のメンバーの胸の内など“Nobody Knows”、誰も知るところではない。


Faces『First Step』

(1970/ Warner Bros)


執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

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