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I Gotta Find Peace of Mind〜ローリン・ヒルが“一度死んで”手にしたものとは?

ローリン・ヒル。1990年代を代表するヒップホップ・グループ、フージーズ(The Fugees)としての活動、映画『天使にラブ・ソングを2』の出演などで知られる。

ソロアーティストとしてリリースした『The Miseducation of Lauryn Hill』(1998年)は、全世界で1200万枚を売り上げる快挙を記録し、女性として史上最多のグラミー5部門を受賞するなど、カリスマ的存在として不動の人気を誇った。

私生活では5児の母(*)で、元夫はボブ・マーリィの息子ローアン・マーリィ。日本では、安室奈美恵がその音楽性やファッションをお手本にしていたことでも知られている。(*別の男性との間に他に1児)



ニュージャージー州に生まれ、母は教師、父はコンピューター・アナリストという中流家庭に育ったローリンは、幼い頃から教会で歌い、テレビやドラマなどに出演したりもしていた。

ハイスクール時代にプラズとワイクリフというハイチ系移民の少年たちと出会い、1989年にフージーズを結成。もともとはオーソドックスなR&Bを指向していたが、デビュー時になぜラップを選んだのか?

「80年代後半のR&Bはセクシャルな歌ばかりで中身は空っぽ。言葉をもっと真剣に受け止めてほしくて、必然的にラップを選んだのよ」


ローリンの歌には、有色人種として、また女性としてのメッセージが常に込められている。自分の意志をしっかり持った毅然とした姿勢が、若い女性の共感を呼ぶのだ。

そんなローリンがグラミー受賞の1999年以降、約2年もの間、“音楽業界の行方不明者リスト”の筆頭にあった。20代前半にしてスターダムの頂点に立ち、世界中の注目を集めていた彼女に一体何があったのか?

2001年の夏、26歳となったローリンは、MTVの番組『Unplugged』の収録のため久々に姿を現した。ステージに登場すると、集まったファンとカメラに向かって意外な言葉を放った。

「本当のローリン・ヒルをみんなに紹介するわ!」


それまで世界中の音楽ファンが知っていたローリン・ヒルは、偽りだったというのだ。行方不明だった間に、“本当の自分”を見つけたというのだ。

「今日、あなたたちはローリン・ヒルを観にやってきたのよね。みんなローリン・ヒルを知っているつもりね? でも実はこれが初対面なの。私自身、自分を知り始めたばかりなのよ」


“最も才能ある将来有望なアーティスト”だったローリンは、数年前までの自分を振り返り「幸せではなかった」と言い切る。望んでいたものをすべて手に入れた途端、自分がそれまで間違った方向に走り続けていたことに気づいた。

人々に認められたい、愛されたい、という欲求のあまり、外見やイメージにとらわれてしまい、自分を枠に押し込んだまま“虚像(公衆が求めるローリン・ヒル)”を演じていたとカミングアウトした。

ビジネスとしてのローリン・ヒルが巨大化するに従い、自分にとって最も大切なクリエイティビティが蝕まれつつあった。そんな自分自身の“歪み”を正すべく、「一度死んで」神の意を探るために聖書を勉強し直すことを決心した。

良きアドバイザーの下で約一年間、聖書の言葉をむさぼるように吸収する。もっともローリンの信仰心は急に芽生えたわけではなく、フージーズや大ヒットしたアルバムでも、聖書からの引用はメタファーを探せば数限りない。

誤解してはいけないのは、“宗教に目覚めた”のではなく、あくまで“聖書に導かれて真の自分に目覚めた”ということだ。ステージ上でローリンは、まるで自宅に友達を迎え入れて話すようにMCを続ける。

「昔は観客のみんなのためによく着飾っていたものだけど、今はもうそういうことはしないの。ごめんなさいね。そんなエネルギーがもうなくて(笑)。新しい私を是非観て」


披露されたステージは、翌2002年にライブアルバム『MTV Unplugged No.2.0』となって音源化されることなる。ボブ・マーリィの「So Much Things to Say」などカヴァーを含む全13曲を、ガットギター1本で弾き語るローリンの歌声は、潔く底知れぬエネルギーに満ちあふれている。

「今日やる曲は、まだほとんどの人が聴いたことのない新曲で、それらの曲は今までに私が経験してきたことに基づいているの。とても貴重な人生のレッスンを幾つも学んだし、それらがなぜ私にとって必要だったのかという理由を知った時には、一層大きな喜びを感じたわ。だから言葉に耳を傾けてもらうことがとても大切なの。聴こえづらかったりしたら手をあげてね。以前、私はパフォーマーだったけど、今はそうは思ってないのよ。与えられた音楽を皆さんと分かち合っているだけなのよ」


その日披露された楽曲の中でも「I Gotta Find Peace of Mind」は圧巻だ。そこに至るまでの壮絶な葛藤と内なる叫びが綴られた内容で…それはラブソングでもあり、ある意味ではゴスペル(感謝の祈り)にも聴こえる。

<引用元・参考文献 CD『MTV Unplugged No. 2.0』ライナーノーツより/新谷洋子(著)・安城ヒース(歌詞対訳)SONY>


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