2014年1月26日、世界最大級の音楽の祭典、第56回グラミー賞授賞式が催された。ポール・マッカートニーとリンゴ・スターによる共演や、17歳にして最優秀楽曲賞を受賞した注目の新人アーティスト、ロードによるステージなど、グラミーの舞台にふさわしいパフォーマンスが次々と披露された。
そんな豪華絢爛なアーティストたちを差し置いて、最大の称賛を浴びたのが2人組のユニット、ダフト・パンクだ。
パリで暮らす学生、トーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストが出会ったのは1987年。2人は流行の音楽よりも、60~70年代のロックやソウルが好きだったことから意気投合し、1990年にはロックバンドを結成するが、残念ながらそのバンドが花開くことはなかった。
しかし、シンセサイザーやドラムマシンを導入してハウス・ミュージックと呼ばれる、ソウルに根ざしたエレクトロな音楽を作り始めると、1995年に念願のレコード・デビューを果たし、続く2ndシングル「ダ・ファンク」がヨーロッパ全土で大ヒット、ダフト・パンクは瞬く間にハウス・シーンを牽引する存在となった。
それ以来、4~5年に1枚というスローペースながらも、細部まで作りこまれたハイレベルな作品を発表し続けて、ダフト・パンクは世界を代表するデュオになる。
そんな彼らが、新たなコンセプトのアルバム制作に取り掛かったのは2008年。それまでサンプリングやループといったデジタルな手法で作ってきた音楽を、人間の手による生の演奏で再現したいと考えた。
プロダクションはその方向性に難色を示したが、2人は一歩も譲らず、彼らがサンプリングで使ってきたドラムやベース、ギターを実際に鳴らせるプレーヤーたちを集結させた。
結果としてソウルやファンク、ディスコ、フュージョンなど様々なジャンルで時代を牽引してきた世界最高峰のミュージシャンたちによる、夢のようなセッションバンドが実現した。
制作に取り掛かってから5年後の2013年5月、ようやくリリースされた4枚目のアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』はデジタルの手法を排除して、1970年代のソウルやディスコ、ファンクを前面に押し出すという大胆な路線変更でファンを驚かせながらも世界中で大ヒットする。
中でも、ファレル・ウィリアムズがボーカルとして参加した「ゲット・ラッキー」はスポティファイで1億回以上再生され、史上最もストリーミングされた楽曲として認定された。
『ランダム・アクセス・メモリーズ』は懐古主義的にも捉えられかねないが、彼らにとっては今の時代だからこそ意味のある挑戦だったという。
「ぼくたちとしては、世界から切り離されたスタジオというカプセルにいる感じにしたかったんだ。そこの時代は1978年でもいいんだけど、その音楽を現在と未来へ持って行ったらどうなるんだろう、時代が変わっても伝わるだろうかと旅してみたいというアイディアなんだ」
グラミーのステージでは、その“世界から切り離されたスタジオ”が見事に再現された。
そこには『ランダム・アクセス・メモリーズ』にも参加した、時代を牽引してきた凄腕のプレーヤーたちが集まって、レコーディングを始めようとしている。観客たちは、現代からタイムスリップしてその歴史的瞬間を目撃できるという演出だ。
ゲストとしてスティーヴィー・ワンダーも加わり、その年の最優秀レコード賞を授賞した「ゲット・ハッピー」の演奏が始まった。曲の途中、それまで閉ざされていたミキシング・ブースのシャッターが上がり、ダフト・パンクの2人が登場すると、会場の盛り上がりは最高潮に達する。
過去と現在、そして未来を1つにつないだこのパフォーマンスは、ダンス・ミュージックのみならず、この先の音楽の可能性を指し示しているのかもしれない。
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