TAP the POP

晩年に復活したロイ・オービソンの偉大なる歌声

♪孤独でいることには
もう飽き飽きしたのさ
私にはまだ
愛を与えられるのに♪


1988年。ロイ・オービソンがトラヴェリング・ウィルベリーズのメンバーとして「ハンドル・ウィズ・ケア」の中で歌った歌詞は、印象的だった。だが、その歌詞は確かに、その頃のロイが置かれていた状況を言いえたものだった。

ロイ・オービソンはすっかり過去の人になっていた。時折、若いシンガーたちが彼の歌をカバーしたり、映画の中で若き日のヒット曲が使われることはあったが、彼自身はといえば、ひとり、孤独の中にいた。

トラヴェリング・ウィルベリーズのメンバーとなるジェフ・リンが、ロイに出会ったのは、その前の年、1987年のことだった。

ジェフにとって、ロイは若い頃からのアイドルだった。手に届くとは思えない空に輝くスターだった。だが、その年、ジョージ・ハリスンと仕事をしたことをきっかけとして、ジェフはロイ・オービソンの事務所の電話番号を手に入れていたのである。

ロイ・オービソンはすっかり自信をなくしているように、ジェフには見えた。時代遅れだ、という意味の言葉を、何度も何度も多くの音楽関係者に言われ続けてきたのだろう。

「あなたが時代に合わせる必要など、ないんだ」とジェフは言った。彼の望みは、あの偉大なるロイ・オービソンをそのまま、再現してみせることだったからである。「また、会おう」と、ロイは言った。

ロイからジェフに連絡が入ったのは、その年の暮れのことだった。マリブーにある家まで来てほしいということだった。ジェフは、ロイの中に、力が蘇り始めていたことを感じていた。ふたりは、セッションをすることを約束した。

ジェフはすぐに、トム・ペティに電話を入れた。
「手伝ってくれないか?」

そして、街がクリスマスのデコレーションで彩られている季節に、3人のセッションは始まった。ジェフはカシオのキーボードを弾きながら、アコースティック・ギターを手にコーラスをするロイとトムを見守った。

♪君が欲しいもの
どんなものだって
君のものさ♪


初めてのセッションで作られた「ユー・ガット・イット」が録音されたのは、明けて、1988年の4月のことである。3人は、トムのバンド、ハートブレイカーズのギタリスト、マイク・キャンベルがもっていたガレージ・スタジオにいた。

いよいよ、歌入れである。そして、初めて、ジェフはロイの歌声を聴くことになった。リハーサルで耳にしていたものではない、本気の歌声は、録音機器の針を振り切ったのである。

♪君が欲しいもの
どんなものだって
君のものさ♪


その圧倒的な歌声は、まさにジェフが欲しいものだった。いや、それ以上のものだった。

ロイ・オービソン、復活。

だが、その年の暮れ、ジェフは早朝、一本の電話に起こされることになる。
「Mr.オービソンが亡くなった」

誰からの電話か、わからなかった。だが、電話の主はそれだけ言うと、電話を切った。ロイのカムバック作は、彼の遺作となってしまったのである。



(このコラムは2017年10月19日に公開されました)


Roy Orbison『MYSTERY GIRL – EXPANDED』
ARIST

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

    TAPthePOPアンソロジー『音楽愛 ONGAKU LOVE』

    TAP the POPが初書籍を出版しました!

    「真の音楽」だけが持つ“繋がり”や“物語”とは? 
    この一冊があれば、きっと誰かに話したくなる

    今までに配信された約4,000本のコラムから、140本を厳選したアンソロジー。462ページ。

    「音楽のチカラで前進したい」「大切な人に共有したい」「あの頃の自分を取り戻したい」「音楽をもっと探究、学びたい」……音楽を愛する人のための心の一冊となるべく、この本を作りました。

    ▼Amazonで絶賛発売中!!
    『音楽愛 ONGAKU LOVE』の詳細・購入はこちらから