1971年に発表したファースト・アルバム『コールド・スプリング・ハーバー』は失敗だった。ビリー・ジョエルは失意に沈み、鬱になり、マネージャーだったエリザベス・ウェーバーと一緒にロサンゼルスへと向かった。
環境は変わった。だが、それですべてがうまくいく、というわけではない。彼らはアパート代を稼ぐ必要があったし、生活費も必要だった。そこでビリーは、クラブでピアノを弾くようになる。
だが、名前は伏せた。ビリーは、ビル・マーチンと名乗った。マーチンは、彼のミドル・ネームだった。
そのクラブは、ロサンゼルスのウイルシャイアー・ブールヴァード3953番地にあった「ザ・エグゼクティヴ・ルーム」というバーである。
「ピアノマン」の主人公はもちろん、ビリー本人だ。そして登場人物たちも、ほぼ実際に店にいた人々である。
ウェイトレスは、エリザベス。ニューヨークからビリーとともにロスにやってきた彼女は、家計を助けるために、ウェイトレスとしてバーで働いていた。ふたりはその後、結婚している。
♪
バーの中にいるジョンは友達だ
いつだってタダで飲ませてくれる
矢継ぎ早に冗談を言うか
誰かの煙草に火をつけている彼だが
本当にいるべき場所は
他のところにあるのさ
♪
俳優になることを夢見ていたバーテンダーのジョンもまた、実在の人物である。
「ああ、確かにバーテンダーの名前はジョンといった。彼はビリーがやめていった後もあの店で働いていた」
店のオーナーだったロイ・ヒルは語っている。
「その後、ジョンが俳優になったかって? ロスで暮らす多くの人間が夢を見ているのさ」
歌に登場する、ジン・トニックと愛を交わしている老人には、モデルがいるのだろうか。彼は気の利いたセリフで、ビリーに歌を歌わせるのだが。。。
♪
おい、若いの
思い出を弾いとくれよ
よく覚えとらんが
悲しくて切なくて
若い時の服を着りゃ
完璧に思い出せるんだがな
♪
「そういう客は、あの店にはいくらでもいたさ」
ロイは、そう語っている。
店は1980年代初頭には取り壊され、ビリーが歌っていた場所は現在、スーパーマーケットの駐車場となっている。
ロイ・ヒルは引退して、老後をフロリダで過ごしている。そして彼のもとには、ビリーが店で弾いていた思い出のピアノが残されている。
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