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いつになったらわかるんだい?~アシッド・ジャズのグルーヴに乗せたジャミロクワイのメッセージ

1980年代後半からロンドンで吹き荒れたレア・グルーヴのムーヴメントから、アシッド・ジャズと呼ばれる新しいグルーヴを表現するミュージシャンが多く誕生した。中でも当時一番注目を集めたのはジャミロクワイと言っていいだろう。

ジャミロクワイは1992年、インディーズのアシッド・ジャズ・レーベルからのデビュー曲「When You Gonna Learn」がクラブ・シーンで話題となり、翌年にはメジャーのソニー・ミュージックと異例のアルバム8枚の契約を結んだ。そして、デビュー・アルバム『Emergency On Planet Earth』とともに、デビュー曲も再発売されて国内外で大ヒットした。

ジャミロクワイの音楽は、まさにレア・グルーヴの申し子だ。そこにはスティーヴィー・ワンダーやスライ&ザ・ファミリー・ストーン、または、ギル・スコット=ヘロン等のブラック・ミュージックの影響を感じさせるグルーヴがある。

ヴォーカリストのジェイ・ケイことジェイソン・ケイは、母のカレン・ケイがキャバレーのジャズ・シンガーであったこともあり、強く母親のジャズからも影響を受けているという。その独特のグルーヴにジェイ・ケイは、自身の強いメッセージをこめたのだった。



“地球の緊急事態”と名付けられた彼らのデビュー・アルバムは、その名のとおり、戦争の愚かさや、環境破壊についてストレートな歌詞で訴える曲で構成されている。

「ある日、テレビで世の中のヒドイ状況を見て『何なんだ、これは!?』と思って、ガーッと書いたりしたんだよ。あのアルバムに入ってる曲はみんなそんな風にして生まれたものだ」(クロスビート1994年12月号インタビューより)


ジェイ・ケイは、ただ単に政治を正そうとか、世の中を良くしようとか、戦略的にそのようなことを考えて書いたのではないと後に語っている。だがデビュー・アルバムには自然崇拝ともとれるほど、環境破壊に対する熱いメッセージがこめられていた。

例えば、バンド名のジャミロクワイの由来は、ジャズのジャム・セッション(jam)と、アメリカ先住民族のイロコイ族(Iroquois)が合わさったものだが、そのことについてアルバムのライナーの中で「あなた達は正しい」と、自然と共に生きる彼らに最大限の敬意を表している。

また、最初のデモには入っていなかったディジュリドゥ(オーストラリア先住民アボリジニの伝統楽器)の演奏を取り入れて、デビュー・シングルのタイトルは「When You Gonna Learn(Digeridoo)」となった。アルバム・クレジットにもディジュリドゥのアボリジニ本来の呼び方であるYidaki(イダキ)という名が併記され、ここでもアボリジニの人々へ最大限の敬意を表している。

そしてジェイ・ケイ自身はアルバムのライナーの中で、「ついに!自分の考えをレコードにのせ、自分を表現出来るチャンスを手に入れたよ!」と、森林伐採による環境破壊への批判から戦争、政治への批判にいたるまで、存分に彼の考えを述べていたのである。

しかし、そんな彼の真っ直ぐすぎるメッセージが、なぜか本国イギリスのメディアからは辛辣に批判された。それは無類の車好きであるジェイ・ケイの矛盾を突いた、マスコミの容赦ない罵倒にとどまらかった。
ついには音楽的にもただの黒人音楽の焼き直しだと批判され、ジェイ・ケイ本人もかなり傷ついたという。

音楽的に大きな評価を得て彗星のごとく表れたヒーローに対して、出る杭が打たれる社会というのは、どこの国でも変わらないのかもしれない。
アメリカではレア・グルーヴの音源をサンプリングしたヒップホップ・アーティストが、ラップに彼らの社会へのメッセージをのせて表現した。そのことと大きく変わらないジャミロクワイの表現だったとはいえないか。

その後、ジェイ・ケイはメディアから距離を置き、メッセージもやわらかい表現に変わるなどしながらも、メディアの酷評とは裏腹に、2000年代にかけて多くのヒットを飛ばした。

当時まだ22歳だったジェイ・ケイの「いつになったらわかるんだい」と題された、環境破壊に対する熱く純粋なメッセージは、20年以上経った今も、エネルギー問題に揺れる社会に普遍性を持って語りかけてくるのだ。



やあ、今日のニュースを聞いたかい?
お気に入りのレストランでは
お金っていうのがメニューにあったんだ
数量についての話じゃないぜ
魚だって海にはいないんだから
欲深い人間が今まであった命を全て殺しているんだ
自然の流れに従って行動した方がいいよ
でないと、自然の方が全てを奪ってしまうかもだ
善悪については自分たちの方がわかっているなんて言おうとするなよ
もう、バランスをひっくりかえしてしまったんだから、なあ
やれることだけはやったのさ
今、僕の人生は君たちの手の中だ

山のように高く 川のように深く(志を持って)
今やってることをやめなくては
この世界を眠りから目覚めさせなくてはならないんだ

なあ、みんな
もうやめようぜ
欲深いやつらはそのうちいなくなるだろう
僕らががやめさえすればね
きっとそうなるさ
なあ、みんな
もうやめなくちゃ
いつになったらわかるんだい?
やめなくちゃいけないって
いつになったらわかるんだい?


JAMIROQUAI『Emergency On Planet Earth』
Sony