一躍イギリスを代表するロックバンドになったアークティック・モンキーズの新たな始まりは、アレックスのソロ活動であった。彼は同世代のミュージシャン、マイルズ・ケインと共に新プロジェクト「ラスト・シャドウ・パペッツ」としてアルバムを発表する。
このユニットの楽曲は60年代のオールティーズ・ポップスを参考にしており、アレックスのルーツ・ミュージックを再確認するための活動でもあった。
そんな試みの結果完成したのが、2009年に発表されたアルバム『Humbug』である。リード曲の「Crying Lightning」は今までの曲と打って変わって重厚感のあるビートに、どこかどんよりしたようなヴォーカルが印象的である。この楽曲は、彼らの新境地となった。
アークティック・モンキーズと深い親交を持っていたリチャードは、アレックスに自分が初めて撮る映画の劇伴を依頼した。お互い映画を撮るのも、それに音楽をつけるのも初めての作業であったが彼らは共に1個の作品を作り上げていった。
こうして完成したのが一本の映画と5曲の劇中歌である。「サブマリン」の舞台はウェールズの海に面した街で、主人公は少し風変わりな15歳の少年オリバー。彼の独白を交えて物語は進んで行く。彼は、妄想や恋、そして両親の離婚問題などに頭を悩ませながら日々を過ごしていく。物語自体にドラマチックな展開はなく、そしてテーマも離婚や恋人の母の病気などテーマも少し重い。
映画に合った音楽を作る挑戦の過程で、彼は自分の声の新しい可能性に気がついたのである。
映画は大々的にヒットしてはないものの、トロントやベルリンの国際映画祭で高い評価を得た。そして、アレックスの歌う劇中歌も彼の新境地として話題を集めたのだ。
アークティック・モンキーズでデビューして5年。アレックスの新しい声はバンドに変革をもたらすことになる。
「サブマリン」のサウンドトラックと1枚のアルバムのリリースを挟み、2013年にアークティック・モンキーズは『AM』というアルバムをリリースする。
このアルバムではアレックスは荒々しいシャウトだけでなく、深みのある声を響かせる。「サブマリン」で手に入れた声がより円熟味を増し、完成されたのである。
変わったのはアレックスだけではない。バンドの演奏も勢いだけではない堂々とした風格を帯び、力強いグルーヴが作りあげられているのだ。
アレックスはそれらのステージでオールバックに皮ジャンパーという身なりでステージに立った。まさにロックンローラーというイメージを具現化したような姿をして、4人は重厚感のある音を鳴らし多くのファンを熱狂させた。