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追悼・大森昭男~大瀧詠一が自分のポップスで最初の完成品と言った「サイダー’74」が陽の目をみるまでの1年間

大瀧詠一が自ら、「大瀧ポップスの最初の完成品です」と自信を持って宣言する作品が誕生したのは、オン・アソシエイツのプロデューサー、大森昭男と知り合ってからちょうど1年が経った時だった。

「サイダー’74」は1974年の1月16日から30日までに、計5日間というCMソングとしては当時も今もありえないほどの時間をかけて作られた。この時のセッションはサウンドもコーラスも第一級の作品となり、ここで<ナイアガラ・サウンド>が一気に出来上がってしまったという。

作詞は前作と同じ伊藤アキラ、ドラムが林立夫で、ベースに細野晴臣、キーボードは松任谷正隆、ギターは伊藤銀次、コーラスがシュガー・ベイブとシンガーズ・スリー、それにホーン・セクションというメンバーで作り上げた音楽は、まさに目指していたナイアガラ・サウンドであった。


大瀧は後に自著「オール・アバウト・ナイアガラ」の中で、「サイダー’74」についてこう明記している。

この作品は大瀧ポップスの最初の完成品です。ここに<はっぴいえんど>も、2年後の「夢で逢えたら」も、6年後の『ロング・バケーション』も、全てが含まれていると思います。


自筆のライナーノーツには、フィル・スペクターが60年代初期にプロデュースしたロネッツのサウンドを意識して、リズムにはレゲエを取り入れたとも書き残している。

CMであっても純全たる音楽作品だと大瀧が考えて作っていたことは、この時のレコーディング・セッションで「サイダー’73」のロング・ヴァージョンを、同じメンバーで録り直して完成させていたことからもよくわかる。

前年に使い終わって新たに「サイダー’74」を作ったならば、もはやCMとしては全くご用済みだったにも関わらず、「サイダー`73」は以前よりもヴァージョン・アップされて完成した。

両方の作品に大きな自信を持った大瀧は「サイダー’73 / サイダー’74」のカップリングで、シングル盤を出してくれるレコード会社を探した。

しかし、ほとんど無名(!)の大瀧が作ったCMソングなど、大手レコード会社はどこも相手にしてくれない。唯一、話に乗ってきたのは、吉田拓郎や泉谷しげるを出して勢いがあったインディーズのエレックレコードだ。だが、大瀧は”いやな予感”がして、あまり気乗りしなかった。

シングル盤が当時発表されていたら、ヒットしなくても、大瀧の活動状況を明確に知らせることが出来たのです。確かにTVでオン・エアーされているという効果はありましたが、それが大瀧個人の音楽活動に結びつくものではなかったのが残念なことでした。


音楽的に最も充実していた時期にもかかわらず、大瀧は1973年と74年の2年間は、1枚のシングルもアルバムも世に出すことができなかった。内心では忸怩たる思いがあったに違いない。それでも不遇な時期をCMソング作りで生き延びながら、音楽的な実験を続けた成果は大きかった。

自信を深めた大瀧は、思い通りのサウンドを作るために、自宅の米軍ハウスを改造してプライベート録音が出来るスタジオを作ることにする。

一方で気乗りしなかったエレックと所属事務所の間では、レーベル設立にまで話が膨らんでいった。ナイアガラから新しいアーティストたちを送り出す構想をイメージしていたので、大瀧は9月にエレックレコードと契約して、プライベート・レーベル「ナイアガラ・レコード」を発足させた。



日本初のミュージシャンズ・レーベルとしてスタートを切ることになったナイアガラだが、最初のアーティストに選ばれたのはシュガー・ベイブである。レーベル第1号の記念すべきデビュー・シングルの「DOWN TOWN」、1stアルバムの『SONGS』が1975年4月25日に同時発売された。

「DOWN TOWN」は、今やシティ・ポップスの代表曲でスタンダードになっている。ところが発売当時の売上は、ほんの微々たるものだった。

シュガー・ベイブがこの世に残したただ一枚のアルバム『SONGS』もまた、当時はごく一部のコアな音楽ファンにしか伝わっていなかった。メンバーだった山下達郎や大貫妙子が活躍し始めた1980年代になってから、あらためて評価が高まってロングセラー・アルバムになったのだ。



満を持して出た大滝詠一のソロ・アルバム第2弾、『ナイアガラ・ムーン(NIAGARA MOON)』が発売されたのは5月25日で、「サイダー’73 」のロング・ヴァージョンと「サイダー’74」はようやくレコードとなって日の目を見た。

しかし、このアルバムもまた、当時は世間的にはほとんど無視されたといってもいいだろう。そして大瀧が抱いていた”いやな予感”が的中して、エレックレコードが秋に倒産してしまった。

ナイアガラ・レーベルの行く先には、そこから暗雲が立ち込めることになった。

(注)本コラムは2014年11月14日に公開されたものです。


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