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愚か者であることが許されない時代~ローリング・ストーンズの「愚か者の涙」と萩原健一の「愚か者よ」

映画評論家でアメリカ在住の町山智浩氏が4月2日、TBSラジオ『たまむすび』に出演して亡くなった萩原健一について語っていた。そのときの発言の内容に、「まったくその通り!」と何度も深くうなずかせられた。

特に「僕の世代にとっての萩原さんっていうのは、心優しくて弱虫で泣き虫の甘えっ子のイメージなんですよ」というところで、「そうだったなあ」という懐かしい思いがよみがえってきた。

確かに1970年代前半、俳優の仕事に軸足を移したころの萩原健一には、寂しそうでナイーブなジェームス・ディーンの柔らかさと、型破りで反抗的なマーロン・ブランドの硬さが同居していた。

町山氏は刑事ドラマ『太陽にほえろ!』のなかで強く印象に残っている場面として、マカロニ刑事役の萩原健一が犯人役の沢田研二を射殺したあとの演技を挙げている。

倒れた沢田研二さんの体にマカロニはむしゃぶりついて、「ごめんなさい……」って泣くんですよ。「起きてください……ごめんなさい……お願いです……」ってずっと泣くんですよ。


脚本にないアドリブの演技で、泣き続けた萩原健一の演技は突出していたという。歌の奔放さについても、こんなことを語ってくれた。

萩原さんのいちばんの有名な曲『ラストダンスは私に』という越路吹雪さんのカバーでは、歌詞の中で「お酒みたいに心を酔わせるわ」っていうのがあるんですけど、そこをライブでは「大麻みたいに心を酔わせるわ」って歌っちゃうんですよ



その後もライブでは「大麻みたい」と唄ったり「ガンジャみたい」と変えたりしながら、そこが後で消されることなど百も承知で、ショーケン流の歌詞にこだわっていた。そうしたこだわりや思いつき、アドリブなどで自由に表現できたのは、彼の歌や演技を周囲がしっかり受けとめていたからだった。

バックバンドが井上堯之さんとか柳ジョージさんとか、もうがっつり超プロフェッショナルのミュージシャンがついていたんで、萩原さんがいくらめちゃくちゃやっても全然大丈夫だったんですよ。支えていたんですよ。映画もそうで、彼がデタラメなアドリブをやっても周りの俳優と、あとは監督が神代辰巳、工藤栄一、深作欣二っていう超天才監督たちが監督をしていたから、萩原さんのデタラメを全部受け止めていたんですよ。


町山氏はこの話の後に、そういうわがままが許されない年齢になってしまって、若い頃のような自由なひらめきによって、思うようにものごとを進めていくのが難しくなっていったのだろうとも述べていた。



昭和が終わる前後から石原裕次郎や美空ひばりといった大スターが亡くなり、1997年には勝新太郎が亡くなってしまった。それを境目にして、いかに多くの人に愛されている大スターといえども、若気の至りのようなヤンチャあるいは我儘、そして法律に反する行動が許される時代ではなくなったのだ。

昔はいたんですよね。まあ『愚か者よ』っていう歌を歌っている通り、愚か者なんですけども。いま、愚か者っていうのは許されない世界じゃないですか。許されない社会になっていますよ。罪人よりも愚か者の方が叩かれる世の中になっていって。


ところで愚か者という言葉で真っ先に思い浮かぶのは、ローリング・ストーンズが1976年に発表した「愚か者の涙」である。ミック・ジャガーがエレキピアノを弾きながら、どうしようもない疲労感をたたえた気分が切々と唄われていくソウルバラードだ。


 オレが一晩中働いて 家に帰ってくると
 ヒザの上に娘を乗ってくる
 すると彼女はこう言うんだ
 「ダディ、どっか悪いの?」
 娘の肩にオレは頭を置いた
 オレの耳に娘が甘くささやく
 なんて言うのか分かるかい?
 「ねぇ、ダディ、泣くなんておバカさん」
 「泣くなんておバカさん どうして泣くの? わかんない」


娘に理解されることのない父親は、泣いて泣いて涙を流す。どこの国だって、大人も泣いているのだ。

誰しも失敗してしまうことはあるし、辛い目に遭うかもしれないことを予感しながら、そうした道をあえて選ぶ瞬間がある。

しかし、そのようにして愚か者となってしまった人間を、自業自得と嘲笑って突き放すのが今の世の中だ。寄り添ってくれる人は少ない。

ショーケンは1987年に出した「愚か者よ」で、このように歌ってくれていた。



<参考資料> miyearnzzlabo「町山智浩 萩原健一を語る」 https://miyearnzzlabo.com/archives/56062


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