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「迷信」をめぐる運命のいたずら~スティーヴィ・ワンダーとジェフ・ベック

1972年3月にアルバム『心の詩』を発表したばかりのスティーヴィー・ワンダーは、もはや全ての楽器を一人で演奏することにこだわりはなく、次のアルバム『トーキング・ブック』では、サックスやギターに複数のゲストを迎えて制作していた。ジェフ・ベックは「アナザー・ピュア・ラヴ」のギター・ソロとして参加した。

そしてそのお礼に、スティーヴィーはジェフに「迷信」という曲を書き下ろしてプレゼントした。ジェフは早速それを、ジェフ・ベック・グループとしてツアーをしていた1972年8月に演奏している。

ちょうどその頃のジェフ・ベック・グループは、メンバーチェンジを繰り返しながら、最終的に元ヴァニラ・ファッジのティム・ボガート(ベース)、カーマイン・アピス(ドラム)との3人になり、バンド名をベック・ボガート&アピス(BBA)としてツアーを続けていた。

しかし、BBAはまだ知名度が低かったこともあり、レコーディングに入る前に3人のコンビネーションを高めることや、バンドの方向性を確認するためにも、その年の11月までのヨーロッパとアメリカの大規模なツアーを行った後に、アルバムのレコーディングを予定していた。

もちろん、このツアー中にも「迷信」は演奏されていた。

一方でモータウン・レコードは、スティーヴィーと破格の契約を交わしたにも関わらず、前作「心の詩」からのシングル「スーパーウーマン」がチャート33位止まりだったことから、今度こそは強いヒット曲が欲しかった。

そこでアルバム『トーキング・ブック』からのファースト・シングルとして、スティーヴィーがセルフ・カヴァーした「迷信」を同年11月に強引に発売した。それはなんと全米チャート1位の大ヒットとなった。

それは、ジェフ・ベックがBBAのファースト・シングルにしようと思っていた矢先の出来事。


結局「迷信」はBBAのアルバムには収録されたものの、シングル・カットされることはなかった。

しかし、このBBAのツアーでの圧倒的なステージの評価は高く、「クリーム、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスに並ぶスーパー・ロック・トリオ」と音楽誌等にも書かれたほどだった。

そんな彼らによる「迷信」も、スティーヴィー・ワンダーのそれとはまた違う、1970年代のロックのグルーヴ感たっぷりの素晴らしい名演だ。


この件についてジェフはとても失望したと言うし、スティーヴィーもまた、ジェフに対してとても申し訳ないと思っていたそうだ。

人生に「たら」「れば」はないと言うけれど、「もしも5年早く生まれていたら」とか、「あと1年遅く出会っていれば」などと考えたりすることは誰にだってあると思う。

今ではスティーヴィー・ワンダーの代表曲とされる「迷信」だが、もしかしたらBBAの代表曲になっていたかもしれない。ほんの数ヶ月の違いが運命を分けたと思うと、運命のいたずらを感じずにはいられない。



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※参考文献 :「天才ギタリスト ジェフ・ベック」シンコー・ミュージック
       「モータウン・ミュージック」ネルソン・ジョージ著 林ひめじ訳 早川書房

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