TAP the POP

Rei × ホリグチチエ(LEARNERS)──ブルーズやロカビリーが「世界で一番オシャレな音楽」に聴こえる

2015年のデビュー以来、華奢な身体からは想像もつかないほどの豪快かつテクニカルなギター・プレイで注目を集め続けるシンガー・ソングライター/ギタリストのRei。片やLEARNERSのギタリストとして頭角を表し、自らリーダーを務めるCHIE & THE WOLF BAITSでも活躍するホリグチチエ。TAP the POPでも人気の高い女性ギタリスト二人による、初めての対談が実現! ギターへのあふれる愛情から、影響を受けたミュージシャンたちへの想い、さらにはルーツ・ミュージックに対する若い世代ならではの向き合い方やギタリストとしての矜持まで、たっぷりと語り合った。

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──ReiさんとCHIEさんが、それぞれ最初にお互いの存在を認識したのは?

Rei 私は『ギター・マガジン』の女性ギタリスト特集(2016年4月号掲載)で、私が紹介されているページに隣にCHIEちゃんが載ってたので初めて知って。そこからLEARNERSを聴きはじめたのがきっかけです。私もブライアン・セッツァーは大好きなんですが、そういうスタイルのギターを弾く日本人の女性を知らなかったし、同世代でこういう方がいらっしゃるんだっていうのが素直に嬉しかった。

CHIE それからわりとすぐ、私が個人的に〈SXSW2016〉を観に行った時、Reiちゃんのライブを初めて観て。その場でCDを買ってファンになったという(笑)。

Rei その時に挨拶して以来、会うのは久しぶりだよね。

──CHIEさんがReiさんのギターを初めて聴いた時の印象は?

CHIE 人づてに噂は聞いていて、Reiちゃんが1人で弾き語りしてる動画をYouTubeで観てたんです。たしかジョニー・ウィンターのカバーだったかな。それを観て「すごく若そうなのに、めちゃくちゃ上手い!」って衝撃を受けて。テクニックがあるのはもちろん、自分の感情とプレイがリンクしてる人はあまり多くないと思うけど、Reiちゃんはそれが出来てる人だなって印象でした。


──同じギタリストから見ても、そういう人はなかなか少ない?

CHIE それって、ある程度のレベル以上の人じゃないとできないと思うんです。正確なテクニックと感情がプレイの上で一緒になる。そこがすごいなって思ってます。

Rei CHIEちゃんは同じギタリストでありながら女性でもあるので、そういう部分に共鳴してもらえるっていうのは本望ですよね。

──CHIEさんはLEARNERSのメンバーとしての活動と並行して、自身のバンド〈CHIE & THE WOLF BAITS〉でも活動されています。

CHIE 私はLEARNERSのギタリストとしてデビューする前から、ずっとバンドでギター/ボーカルとして活動していて。だからもともと「ギタリスト」だけでやっていきたかったわけじゃないんです。あくまでギターを弾いて、歌って、曲を作る人になりたかった。THE WOLF BAITSの活動っていうのは昔からの流れを汲んだ、私の人生そのものであって。突然ギタリストの人がバンドをやったっていうものでもないんです。なので、THE WOLF BAITSではシンガー・ソングライターとして、LEARNERSではギタリストとしてといった感じで、使う脳みそが違う感じですね。音楽性もLEARNERSはオールディーズが基本にあるけど、自分のバンドはオルタナ・カントリーとかアメリカーナって呼ばれる音楽を多く取り入れてやってます。


──Reiさんは先日CD+ミュージックブックという形態の新作『CRY』をリリースしたばかりで、この夏は国内外の大型フェスに数多く出演されました。中でも7月にフランスで開催された〈Les Eurockéennes〉では、ギターとドラムの2人だけの編成で大観衆をロックさせていましたね。


Rei 幸せでしたね。18000人ぐらい収容のステージで演奏させてもらったんですけど、今までそんなに大きな場所でやったことがなかったので。洞窟に目隠しで突っ込んでいくような感覚でやりました(笑)。とにかく刺激的な体験でした。


──さて、今日はお二人に愛用しているギターを持参いただきました。Reiさんにはブルーバーストが鮮やかなリッケンバッカー330を。CHIEさんは1960年製グレッチ6120ですね。

Rei (CHIEのギターを眺めながら)かわいい……。

CHIE ブロンディって名前で、いつもブロさんって呼んでます。Reiちゃんのリッケンバッカーも、こんなに綺麗な鮮やかな青が出てるのがカッコイイ!

Rei 元の塗装は黒だったんですが、手伝ってもらいながら、ブルーのグラデーションに自分で塗装し直しました。リッケンバッカー特有のプリプリな音も出るけど、太い音も出るようにピックアップをカスタマイズしたんです。


CHIE 私は逆に全然いじれない人なんです。何もわからないから、そのまま使ってます。最初は鉄製の細いバーブリッジが付いていたのを、真鍮製の太めのバーブリッジに変えました。あとはブライアン・セッツァーと同じようにピックアップのスイッチ位置を変えたぐらいで、中身はほとんどそのまま。

Rei 私もグレッチ欲しいな! ビグスビーにもずっと憧れてるんですよね。CHIEちゃんのギターも、色がすごく綺麗!

CHIE 60年製なんだけど、すごく綺麗なの。オーバーラッカーもされてるらしくて。

Rei この時代のラッカーっていいですよね。薄くて、木が近い感じがします。リッケンバッカーは指板に塗装してるのが有名ですけど、私のはそれを剥がしてあって。ラッカーもポリだと木を遠く感じちゃうので、ソリッドでも抵抗がある。だから塗装し直すタイミングでちょっと薄付きにしてもらいました。

CHIE (Reiのリッケンバッカーをしみじみ眺めながら)かわいい……。

──二人ともギターに対して「かわいい」って感覚があるんですね(笑)。

Rei 女の子は誰でもそうだと思うんですけど、楽器はファッションの一部でもあるから。今日使う楽器に対して、洋服も決めますしね。


──それぞれが影響を受けた、ギタリストとしてのヒーローというと誰になりますか?

Rei 私は4歳の頃からクラシックギターを演奏していたんですが、ニューヨークに住んでいた5歳の時にジャズ/ブルーズを演奏して。そこからインプロビゼーションが入ったような音楽をやりはじめたんです。初めてヒーローのように感じた存在は、ビートルズを経て出会ったクリームですね。自分にとってエリック・クラプトンは永遠のヒーローです。そこからジョニー・ウィンター、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフとブルーズの音楽をどんどん掘っていくようになりました。

Reiのルーツとなった2枚

マディ・ウォーターズ
『Electric Mud』

(ユニバーサル)

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  • 1968年発表、ピート・コージー、フィル・アップチャーチらが参加した電化ブルーズ・アルバム。ストーンズ曲のカバーなども収録。

イエス
『Fragile』

(ワーナー)

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  • 1971年発表、いわゆる黄金期のメンバーにより制作された4作目のアルバム。Reiさんは作曲やアレンジ面で影響を受けたという。

──Reiさんにとってブルーズの扉を開けてくれたのが、クラプトンだったということですね。CHIEさんにとってのギター・ヒーローは?

CHIE 私はブライアン・セッツァーですね。その時々で好きなギタリストはいるんですけど、その人の生き方とか全部含めて好きなギタリストというと、ブライアン・セッツァー1人だけです。

──ブライアン・セッツァーに出会ったのはいつ頃?

CHIE 18歳です。私、前世はロカビリーやってた人かも?って思ったぐらい衝撃を受けて。自分のやるべきことはコレなんだなって感じの出会いでした。ギターに出会った時と同じぐらい、衝撃的な出会いでした。だけどそこから紆余曲折があって……日本のロカビリー・シーンに触れた時に、自分の思い描いてたおしゃれなものと違って結構古臭く感じてしまって。そこで一度離れてしまったんです。自分でロカビリーのスタイルをやろうと思ったのが、23歳ぐらいの時。ブライアン・セッツァー・オーケストラのライブを観に行った時に「やっぱりブライアンみたいになりたい!」って思って。それから今のようなスタイルをはじめました。結構練習しましたね。泣きながら練習したり(笑)。ライブやって失敗して、またライブやって……って繰り返してるうちにできるようになったかな。

CHIEのルーツとなった2枚

ブライアン・セッツァー・オーケストラ
『The Ultimate Collection』

(Surfdog)

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  • 1995年と2001年の音源を収めた2枚組ライブ・アルバム。CHIEさんはギター・ソロのフレーズが歌えるぐらい本盤を聴き込んだという。

ニーコ・ケース&ハー・ボーイフレンズ
『The Virginian』

(Bloodshot)

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  • ガレージ・パンク出身のオルタナ・フォーク・シンガーの1st。CHIE & THE WOLF BAITSを結成する際に影響を受けたそう。

──ReiさんもCHIEさんも、ステージ上の佇まいに惚れ惚れするんですが、ライブ・パフォーマンスで心がけてることはありますか?

Rei もともとクラシックギターを演奏していたこともあって、椅子に座って足台を立てて演奏するスタイルをやっていたので、あまりステージングに対してのボキャブラリーがなかったんです。でも、よくしたいなって気持ちがすごくあって。たとえばTボーン・ウォーカーだったり、いろんなミュージシャンのライブ映像を観て、ギターの構え方を真似っこしていました。それこそブライアン・セッツァーやシスター・ロゼッタのように大勢の人数を背負ってる時のギターの構え方もあれば、人数が少ない時には大振りに動いたほうがかっこいい時があるし。たぶんステージ上にいる人数によっても動き方も変わってくると思うので。そこらへんを研究しながら……まだ全然未熟な感じですけど。

CHIE えぇーっ、未熟なんてそんな! すごいカッコイイよ!

Rei ありがとうございます(笑)。LEARNERSのライブや映像を観ていると、すごくエンタテインメントを感じるんです。私はついつい耳触りがいいかどうかとか、音楽的に優れているかどうかみたいなところに執着しすぎて、ステージに立っていてもショーであることをわりと忘れちゃう自分がいるので。そういう部分でも、CHIEちゃんの演奏は魅力的に感じます。

CHIE いやー、LEARNERSのライブはかなりめちゃくちゃなんで、なんかすいませんって感じですけど(笑)。



──CHIEさんがギター弾きながらジャンプしてるところなんか、めちゃくちゃカッコイイじゃないですか。ああいうステージ・アクションも研究したんですか?

CHIE 昔はやりましたね。若い時はステージングのやり方だけでスタジオに入ったりして。鏡の前で1人で跳んでみたり(笑)。そうしてるうちに自然にできるようになったから、今は何も考えてないです。

──そうしたアクションも、心や身体とリンクしてくるようになるんでしょうね。

CHIE そうですね。自分でも予想つかないぐらい、身体が先に動いたりしてます。あとから映像や写真を見て、「あれ?こんな動きしてたっけ?」って思うことも多いですね(笑)。クルッて回転した時も「なんで今回ったんだろ?」って自分でビックリする(笑)。

Rei えーーっ!

CHIE たぶん、バンドの魔法がかかってるんだろうと思うけど。LEARNERSのメンバーはみんなすごいから。特にドラムのTA-1さんが激しい。とにかく爆音なんですよ。自分の音もボーカルも聴こえない!みたいな状況でやらなきゃだから。ハマ兄もそうだけど、みんな野生児なんで。戦うしかない!みたいな感じでやってますね。


Rei あとCHIEちゃんは音作りもすごく研究されてるのかなって感じますね。空間系のリヴァーブのかかり方とか、あのロカビリー独特のショートディレイなのか、もちろんビグスビーのトレモロの音とかもあると思うんですけど、小手先じゃない探求しているような音作りを感じて。素直に心地良いなって思います。

CHIE RolandのテープエコーでRE-301っていうのがあって、ブライアン・セッツァーが使ってるのと同じものを持ってて。

Rei そうなんだ! じゃあ間違ってはなかったってことですね。

CHIE そうです! でも、それが壊れちゃってて修理に出さないといけないんだけど。レコーディングの時は基本そのテープエコーとオーバードライブだけです。できるだけシンプルにしたくて。

Rei 私もそう思います。いつももっとシンプルにしたいって思ってて。究極はギターとアンプと最小限のエフェクターが、一番如実に人間のフィーリングとかフレージングが出るし、弾き手の力量も試される。それがギタリストとして一番あるべき姿なんじゃないかなって思います。

──CHIEさんは、Reiさんのプレイやサウンドから刺激を受ける部分はありますか?

CHIE Reiちゃんは最新型の音楽をやってるなって思ってて。いろんなリズムがあったり、いろんなジャンルから持ってきたりしてるんだろうなって思って、幅が広いのがすごく尊敬しますね。16ビートのカッティングなんかは、今まで私の中にあまり無かったから。こういうアプローチもあるんだ!って気付かせてくれるし。いろいろなエッセンスを感じさせるから、本当に幅が広いなって思いますね。エレキだけじゃくアコギもそうだし、ラグタイムっぽいこともあるし、もちろんクラシックギターもあるし。

Rei 好奇心旺盛でいろんなものに興味があって、取り入れたくなる気持ちがすごくあるんですけど、器用貧乏にならないように一つ一つを究めるのも難易度の高いことだなって。といいつつ、難しいことを考えずに純粋に楽しめる音楽を、聴いてる人に伝えていければいいなって思ってます。


──それぞれブルーズとロカビリーって違いはあるけれども、昔の音楽がギター・プレイに影響を与えているという部分では共通していると思うんですが。

Rei 昔の音楽っていうと語弊があると思うんですけど、想像するにCHIEちゃんも私も、昔のこの時代の音楽だからって理由でブルーズやロカビリーを聴いてるわけではなくて。時代は関係なく音楽を貪欲にディスカバーしていったら、こんなにもカッコイイものと出会って、しかもそれがすごく心との距離が近い音楽だったっていうだけなんじゃないかなって思います。好きな音楽がプレイに反映されているっていうのは、純粋に好きな色の服を自然と着てるような感覚です。

CHIE Reiちゃんのギター・プレイを聴いて感じるのは、ブルースっていうのがオシャレに聴こえてるんだろうなってこと。それは私も同じで。私にとってはロカビリーっていうのが「世界で一番オシャレな音楽」って聴こえ方をしているんです。他の人が思うブルーズとかロカビリーとは、たぶん私たちは聴こえ方が違うのかなって。

──今の時代にあっても充分ヒップな音楽として捉えられるというか。

Rei ファッションも音楽も時代が巡るところがあるけれど、少し前だとストリート系のカルチャーがリバイバルしていたように、今度はまたロックや生演奏が入るような音楽もリバイバルしていくと思うし、そのカッコよさが理解されるように2017年のサウンドとしてプレゼンテーションしていけたらなって思います。

──では最後に、お互いにはこれからどんな活動を期待しますか?

Rei 何も言うことがない! Go Your Way!っていう感じです。

CHIE 私も同じですね。Reiちゃんも私も、きっとこれからもブルーズとかロカビリーとかジャンルに括られ続けられると思うんだけど、そういうのって絶対何か言ってくる人はいるんですよ。保守的な人が(笑)。でも、出る杭は打たれるけど、出過ぎたら打たれない! そうなって欲しいし、Reiちゃんは日本で本当に誇れる数少ないアーティストだと思うから。私も追いかけてがんばります! 

──そしていつか2人のコラボも見てみたいですね。

Rei&CHIE ぜひ!

取材・文/宮内 健
写真/沼田 学

Rei official website http://guitarei.com/
ホリグチチエ official website http://chie59.com/

Rei
CD+MUSIC BOOK
『CRY』

(Reiny/AWDR/LR2)


LEARNERS
DVD
『IN THE CUTUP STUDIO AND MORE』

(KiliKiliVilla)


CHIE & THE WOLF BAITS
CD Album
『Chie & The Wolf Baits』

(VOLTAGE RECORDS)



Bonus Track
取材の終わりに、対談相手にオススメしたいお気に入りのアルバムを2枚ずつセレクトしてもらいました。Reiさんからはオランダ出身の女性ジャズ・シンガーとブラジルのクラシック・ギタリストのアルバムを(カロ・エメラルドのアルバムはすでにCHIEさんも持っていたのだそう)。CHIEさんからは、大好きだというシカゴのレーベル〈Bloodshot〉からブルーズからの影響を感じさせる2作品をチョイス。



ReiからCHIEへ、今オススメしたい2枚

カロ・エメラルド
『Deleted Scenes from the Cutting Room Floor』

(Grandmono)

クリスティーナ・アズマ
『É de Lei』

(LOCO)


CHIEからReiへ、今オススメしたい2枚

スコット・H・ビラン
『The Bad Testament』

(Bloodshot)

ルーク・ウィンスロウ・キング
『I’m Glad Trouble Don’t Last Always』

(Bloodshot)