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ボニー・レイットの決意〜ブルースマンの危機が暗闇に迷った彼女に光を与えた

2016.12.01

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ボニー・レイット──この名前を耳にすると、彼女の音楽がむしょうに聴きたくなってしまう。ブルース、R&B、ロック、ポップス、バラードなど、それがどんなタイプの音楽であっても、ボニーの声に包まれると実に味わい深く、聴く者の心に響き渡る。そしてあの極上のスライドギターが壮大な音楽の旅へと誘うのだ。こんな体験をさせてくれる女性ミュージシャンはそうはいない。

1949年生まれのボニーは、父親がブロードウェイのスター、母親がピアニストというショービジネスの家庭で育った影響もあり、幼い頃から音楽に目覚めてギターを手にする。大学生になるとブルース・クラブで演奏するようになるが、この頃にプロモーターのディック・ウォーターマンと知り合い、フレッド・マクダウェル(ローリング・ストーンズが彼の「You Gotta Move」をカバーしたのは有名)やシッピー・ウォレスといった伝説のブルースマンやシンガーと孫と娘のような関係で交流。特にフレッドからはスライドギターを伝授してもらい、赤毛の白人スライドギタリスト/ブルースシンガーとして1971年にレコードデビューを果たす。

以後70年代を通じて、ボニーは良質な作品を発表し続けた。どのアルバムからもデルタ・ブルースやR&Bへの愛情、ルーツ・ミュージックに対する敬意が聴こえてくる。そして歌い手としても、ジャクソン・ブラウンやJ.D.サウザー、エリック・カズやジョン・プライン、カーラ・ボノフなどの優れたソングライターの曲を紹介してくれた。73年頃からはリトル・フィートのローウェル・ジョージの影響でエレクトリック・スライドも取り入れ始め、彼女は自分が信じる音楽だけをひたすら追求していった。

しかし、マーケティングやコマーシャリズムとは無縁のその音楽性は、セールスやチャートに結びつくことはなかった。71~86年までに9枚のアルバムをリリースしたものの(しかも86年のアルバムは3年前に制作されたもの)、レコード会社から契約を破棄されてしまう。「売れない」というのが一番の理由だった。

さらにボニーはこの時期、個人的なトラブルを抱えていたせいか、酒や薬物に溺れたといわれる。スリムだった身体も肥満になり、それは独特の歌声にも影を落としていた。ライ・クーダーと並ぶスライドの名手であり、リンダ・ロンシュタットとも比較されたことのある歌い手の目の前には、このまま忘れられるか、それとも死んでしまうか、そんな救われない選択肢が迫っていたに違いない。

ボニーは失意のまま、暗闇に覆われた道に迷いながら音楽を続けることになった。「ノー・ニュークス」(1979)や「サン・シティ」(1985)や「ファーム・エイド」(1985)といったチャリティ活動家でもあった彼女は、1988年にカルロス・サンタナやジェリー・ガルシアらと一緒にあるチャリティ・コンサートに出演。

<ブルース・フォー・エルサルバドル>に参加したことが、私が立ち直るきっかけになったと思う。自分の音楽に対する姿勢の原点のようなものを、このコンサートでつかみ直すことができた。しばらく見失っていたものを思い出した気がして光が見えたの。自分のすべきことがもう一度きちんと見えてきたのよ。


ボニーには本物の音楽を創り出したはずの黒人ブルース・ミュージシャンたちが、いい加減な著作権契約のためにレコード会社から搾取されて、生活さえ困窮している現状が許せなかった。今度は「自分が彼らのために立ち上がらねば」と思ったのだ。

そんな中、心機一転してドン・ウォズをプロデューサーに迎えて制作した1989年の『Nick Of Time』は、何と全米ナンバーワンとなって500万以上のベストセラーに。グラミー賞のアルバム・オブ・ジ・イヤーにまで輝いた。40歳での大ブレイク、大復活。
そこに何よりも意味があったのは、デビュー当時から一貫した音楽性だったこと。しかも彼女のスライドが今まで以上にドライヴしていたことが嬉しい。 

「ブルースの危機が私を救ってくれた」と彼女は言う。ボニー・レイットは誰もが認める本物のミュージシャンとして、現在も良質な音楽と向かい続ける(ボニーは、支援や保存を目的としたリズム&ブルース基金の設立メンバーでもある)。


Live In Montreux ’77


復活後の代表曲の一つ「Something to Talk About」。スライドを弾く姿こそボニー・レイット。

ボニーがリリースしてきたアルバムたち。
スクリーンショット(2014-11-11 23.52.25)
*このコラムは2014年11月13日に初回公開されました。
*参考文献/Switch1989年10月号、『CROSSBEAT Presents スライド・ギター』(五十嵐正監修)



こちらのコラムも併せてお読みください。

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