1979年。エルヴィス・コステロの3枚目となるアルバム『アームド・フォーセス』は、デビュー・アルバム『マイ・エイム・イズ・トゥルー』、セカンド・アルバム『ディス・イヤーズ・モデル』に引き続き、ニック・ロウがプロデュースを担当している。
イギリスにおけるセールスは、ファーストからセカンドで、最高位が14位から4位へと上がっていたが、アメリカでは32位から30位と伸び悩みが指摘されていた。
このアルバムで。。。
『アームド・フォーセス』の発売を前に、担当者がそう意気込んだのも無理はない。そして、イギリス盤とアメリカ盤で収録曲を変える、という作戦が取られたのである。
アメリカ盤で外された曲は「サンデーズ・ベスト」だった。
♪ イギリスのベイビーたちにはタフな時代さ ♪
という歌詞で始まる楽曲がアメリカ向きではない、と判断されたからだった。
そのかわりに収録されることになったのが、「ピース、ラヴ&アンダスタンディング」だった。
♪ 邪悪に満ちた世界を歩いては
狂気の闇の中で光を探す
僕は自らに問う
希望は失われたのか
この世には憎悪と苦痛しか
残されていないのか、と ♪
「ピース、ラヴ~」は、エルヴィス・コステロの作品ではない。プロデューサーのニック・ロウが自らのバンドのために書いた作品であり、1978年に発表した自らのシングル「アメリカン・スクワーム」のB面に収録し直した作品だった。
「あの曲を書いたのは、1973年のことだった」とニック・ロウは語っている。
「当時は、ヒッピー的なことが消えていこうとしていた。人々は大麻ではなく、よりハードなドラッグを求めていたし、アルコールもまた口にするようになっていた。みんな、ヒッピーたちの夢から滑り落ちて、シニカルになっていたのさ」
最初は、そんな時代のムードを面白おかしく歌にしようとしたニック・ロウだったが、歌の骨格ができてくると、考えが変わってくる。
♪ 僕がただ知りたいことは
平和と愛と理解の、どこがおかしいのか、
平和と愛と理解の、どこがおかしいのか、
ってことさ ♪
「この歌の中には、一握りの叡智が含まれているような、そんな気がし始めたんだよ」
ニック・ロウは自らのバンド、ブリンズリー・シュウォーツでこの曲をレコーディングする。だが、彼の思い通りに曲がヒットすることはなかった。
だが、エルヴィス・コステロがレコーディングしたことで、アメリカでは若者たちに支持され、ウォール・フラワーズ、フレイミング・リップス、パーフェクト・サークルなどにカバーされることとなった。
アルバム『アームド・フォーセス』もアメリカで最高位10位までのぼるヒットとなった。
ところで、ニック・ロウは、この曲について、ジュディ・シルの「ジーザス・ワズ・ア・クロス・メーカー」に影響を受けたことを打ち明けている。
アサイラム・レコードの第1弾アーティストとしてデビッド・ゲフィンに発掘されたジュデイは、「ジーザス・ワズ~」を書いた頃、J.D.サウザーと交際していたと言われている。
音楽という大木は、僕らが気づかないようなところへと、その根をのばしていることに改めて驚かされるのだ。
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