「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the ROOTS

エルヴィス・コステロに愛と平和を叫ばせたのは?

2024.08.25

Pocket
LINEで送る

1979年。エルヴィス・コステロの3枚目となるアルバム『アームド・フォーセス』は、デビュー・アルバム『マイ・エイム・イズ・トゥルー』、セカンド・アルバム『ディス・イヤーズ・モデル』に引き続き、ニック・ロウがプロデュースを担当している。

イギリスにおけるセールスは、ファーストからセカンドで、最高位が14位から4位へと上がっていたが、アメリカでは32位から30位と伸び悩みが指摘されていた。

このアルバムで。。。
『アームド・フォーセス』の発売を前に、担当者がそう意気込んだのも無理はない。そして、イギリス盤とアメリカ盤で収録曲を変える、という作戦が取られたのである。
アメリカ盤で外された曲は「サンデーズ・ベスト」だった。

♪ イギリスのベイビーたちにはタフな時代さ ♪


という歌詞で始まる楽曲がアメリカ向きではない、と判断されたからだった。
そのかわりに収録されることになったのが、「ピース、ラヴ&アンダスタンディング」だった。

♪ 邪悪に満ちた世界を歩いては
  狂気の闇の中で光を探す
  僕は自らに問う
  希望は失われたのか
  この世には憎悪と苦痛しか
  残されていないのか、と   ♪


「ピース、ラヴ~」は、エルヴィス・コステロの作品ではない。プロデューサーのニック・ロウが自らのバンドのために書いた作品であり、1978年に発表した自らのシングル「アメリカン・スクワーム」のB面に収録し直した作品だった。


「あの曲を書いたのは、1973年のことだった」とニック・ロウは語っている。

「当時は、ヒッピー的なことが消えていこうとしていた。人々は大麻ではなく、よりハードなドラッグを求めていたし、アルコールもまた口にするようになっていた。みんな、ヒッピーたちの夢から滑り落ちて、シニカルになっていたのさ」


最初は、そんな時代のムードを面白おかしく歌にしようとしたニック・ロウだったが、歌の骨格ができてくると、考えが変わってくる。

♪ 僕がただ知りたいことは
  平和と愛と理解の、どこがおかしいのか、
  平和と愛と理解の、どこがおかしいのか、
  ってことさ              ♪

「この歌の中には、一握りの叡智が含まれているような、そんな気がし始めたんだよ」


ニック・ロウは自らのバンド、ブリンズリー・シュウォーツでこの曲をレコーディングする。だが、彼の思い通りに曲がヒットすることはなかった。

だが、エルヴィス・コステロがレコーディングしたことで、アメリカでは若者たちに支持され、ウォール・フラワーズ、フレイミング・リップス、パーフェクト・サークルなどにカバーされることとなった。
アルバム『アームド・フォーセス』もアメリカで最高位10位までのぼるヒットとなった。


ところで、ニック・ロウは、この曲について、ジュディ・シルの「ジーザス・ワズ・ア・クロス・メーカー」に影響を受けたことを打ち明けている。

アサイラム・レコードの第1弾アーティストとしてデビッド・ゲフィンに発掘されたジュデイは、「ジーザス・ワズ~」を書いた頃、J.D.サウザーと交際していたと言われている。

音楽という大木は、僕らが気づかないようなところへと、その根をのばしていることに改めて驚かされるのだ。



こちらのコラムも合わせてどうぞ!
パブロックの雄が放った珠玉のメッセージソング〜平和、愛、そして理解しあう事のどこがおかしいんだい?〜

Elvis Costello『Armed Forces』
Universal

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the ROOTS]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ