♪
最初のギターは
安物の雑貨屋で買った
指から血がにじむまで弾いたものさ
あれは69年の夏のこと
♪
ブライアン・アダムスの「思い出のサマー」(Summer of ’69)は、ギターを手に入れた夏の描写から始まる。1959年生まれのブライアンは1969年当時、9歳だった計算になる。彼は早熟だったのだろうか?
この曲をブライアンと共作したのが、ジム・ヴァランスだ。エアロスミスの楽曲などでも知られる彼は、この1969年という年について、次のように語っている。
「まず感じたのは、ジャクソン・ブラウンの『ランニング・オン・エンプティー』だね。あの歌には、♪69年、僕は21だった♪という歌詞が出てくる。歌詞を書く時に無意識のうちに、あの69が出てきたんじゃないかってね」
ジム・ヴァランスはもうひとつ、仮説を立てている。
今度は「夏」のほうだ。
「夏については、『サマー・オブ・’42』(おもいでの夏)という映画の影響があったのかも知れない」
「おもいでの夏」は、思春期の少年のひと夏の経験を描いた1971年のアメリカ映画である。思春期の少年と夏。このふたつのキーワードから連想される言葉は<セックス>である。
♪
ああ今思い返しても
あの夏は永遠に続くように思えた
もし選べるなら
いつもあの場所にいたいと思う
人生最高の日々に
♪
ブライアン・アダムスは、そのキャラクターもあるのだろうが、正面を切ってセックスについては歌っていない。だが、インタビューではこう語っているのである。
「シンプルだよ。夏とメイクラブを振り返った歌さ。僕は、69という数字は、実際の年ではなくて、メイクラブのメタファーなんだよ」
歌い始めの歌詞でギターの意訳した言葉は、原詞では、シックス・ストリングス、6弦という意味である。
「スペインでこう言われたことがあったよ。最初のギター(six strings)ではなく、最初の夢精(sex dream)って聴こえるって(笑)」
ヴァランスの説明では、この歌詞は、フォーリナーの「ジュークボックス・ヒーロー」の影響だが、その他にも、この歌には過去の名曲たちの残像が散りばめられている。69は、美しき過去の象徴であり、名曲のメタファーなのだ。
♪
ママのポーチに立ち
永遠に待つと言ってくれた君
♪
のポーチは、スプリングスティーンの「レーシング・イン・ザ・ストリート」のシーンを彷彿とさせるし、
♪
君がこの手を握ってくれた時
僕にはそれが「ナウ・オア・ネヴァー」だと
わかっていたのさ
♪
は、ビートルズの「抱き締めたい」とエルビスの「ナウ・オア・ネヴァー」である。
♪
ああ、そうさ
あの69年の夏
ああ
あれは69年の夏だった
僕とベイビーの、69
♪
夏の終わりに、それぞれの夏を思い返すのも悪くない。
(このコラムは2016年8月25日に公開されたものです)
●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから